ホタルの乱舞
一日の撮影を終えロッジに戻る。管理人は1年前までクスコのホテルでコックをしていた人だという。どうしてこんな山奥に来たのか尋ねると、雑踏から離れてしばらく静かなところで人生を考えてみたかったからだという。
一人暮らしの日が多いロッジなので持ってきた本がたっぷり読めました、と顔をほころばした。多くの人が、多忙にまかせ読書はおろか、人生を振り返ることもなく一生を送ってしまっている。彼の勇気ある決断は、きっとこれからの人生に役立つことだろう。
彼としばらく話をしている内に、ロッジの周りが夕闇に包まれだした。ふと見ると、暗闇に沈み始めた木々の間を、小さな明かりがふわふわと浮遊している。ホタルだ! ランプをつけるのをしばらくやめてもらい、黄金色(こがねいろ)の
光の乱舞を楽しむことにした。
しだいにその数を増してきたホタルたちが演ずる光のショーを眺めていると、2年ほど前、アンデス山中の学校を訪ねときの思い出が蘇ってきた。確かマナワの学校もここと同じぐらいの標高だった。こんな環境で育った子供達には、登校拒否も、自閉症も、いらいら症候群やそわそわ症候群も縁がない。文明化の陰で人類が失ってしまったものの大きさを感じられずにはおられないひとときであった。
しばらくしてランプが点灯された。ほのかなランプの灯りは人の心を温かくする。心のこもった料理をいただくと、なおさらだ。管理人、セサル、運転手、四人の会話が夜遅くまで弾んだ。久しぶりに心がなごむ一夜であった。