マヌー第2日目
ピルコパタを7時に出発。体調はだいぶ回復したようだ。再び車に揺られて1時間半、アタラヤ(Atalaya)に到着、車での旅はここまで。道はしばらく続くが悪路のため、ディオス川(Rio Alto Madre de Dios)を下る船旅
になる。(「マヌー(MANU)地図」参照)
全長10メートルほどのボートの親分のような船には、座席が8つほど用意されている。簡単な屋根が着いているが左右からの雨を防ぐにはほど遠い。
ましてや沿岸の野鳥を見るためには一番前の席に座らねばならないから少しでも波が高いと、水しぶきが飛んでくる。あいにく朝から小雨が降っており、雨と水しぶきは覚悟をしなければならないようだ。
いよいよ船旅が始まった。3時間ほどで雨はやんだものの、曇り空と霧でとても写真を撮る状況ではない。船風(ふなかぜ)のせいもあってポンチョをきていても肌寒く、トランクから冬用のシャツを出して着る。
船出から6時間、どんよりした川景色を眺めながら、ひたすら目的地への到着を待ちつでける。
4時過ぎにようやく本日の宿泊地ボナンザ(Bonanza)に到着。ロッジに入り一休みしようとベッドに横たわるものの、船の揺れが体に残りベッドが波打っているようだ。
休息後、ロッジのベランダに三脚を据え周囲の木に飛んでくる鳥の撮影を始めた。鳥たちは高い木に止まるため600ミリのレンズでも思うように撮れない。暗い原生林
を避けて、周りが開けた川原に出てみることにした。
河原行きは正解だった。砂浜の小さな灌木の間を日本では見られない色鮮やかな野鳥が飛び交っている。桑島氏が指さす方向を見ると、「フクロウ」によく似た鳥が
低い立ち木にとまっている。20メートル近くまで寄っても逃げずにいる。どうやら「コノハズク」のようだ。
日本ではフクロウやコノハズクは激減しており、なかなかその姿見ることが出来なくなってきている。 それに警戒心が強いため、とてもこんなに近くまで寄ることは出来ない。人の姿を見る機会
が希(まれ)のせいか、警戒感が少ないようだ。
ガイドのエドワードに誘われて、夜、ジャングルに棲む大きなクモを見に出かけることにした。夜でないと見ることが出来ないのだという。鬱蒼(うっそう)とした暗闇
(くらやみ)のジャングルを懐中電灯を頼りに進む。星も月も出ない原生林の中は真の闇だ。ときどき鳥の夜鳴きの声や風の音が闇の中を響き渡る。まるで太古の昔に戻ったようだ。
30分ほど歩くと、ガイドが大きな木をライトで照らし、「木の根本を見ろ」という。根本と言うから足下に目をやっていると、ガイドのライトは頭の辺りを照らしている。通訳が根元と幹を間違えたのかと思ってよく見ると、何と
巨大な根が頭より高い位置から伸びているではないか。
根は地面に這うものと思っていた私には、目の前に広がったお化けのような根が信じられない。ガイドによるとそれは「マキーラ(Maquira)」と呼ばれる木で、10メートルを超す大木の
中には、根の長さが100メートルにも達するものがあるという。
根の大きさに度肝を抜かれて見入っていると、ライトに照らされた根の一カ所に巨大なクモの姿が浮かび上がった。木も大きいけれどクモもまた大きい。長い足を広げた横幅は40センチほどもある。「アンピヒリオン(Ampigilium)」と呼ばれるサソリと蜘蛛のあいの子だという。
ロッジに戻ると食堂に薄暗いが電気が灯っている。食事の時間だけ発電機が回されているのだ。同伴したコックの味付けがことのほか日本人好みで、久しぶりにお腹を膨らませて
部屋に戻る。
ロッジは高床式になっているため、湿気は感じられないが、壁が無いため夜風がしみて、用意されたタオルケット一枚では寒くて眠れそうにない。8月下旬の南半球は冬の終わり
だが、インドネシアのジャワ島と同じ南緯10度のこの辺りは、本来なら蒸し暑く、タオルケット一枚で十分なはずだ。
異常気象はアマゾンの熱帯雨林にも影響を及ぼしているようだ。長袖のパジャマに着替え、用意してもらった3枚の毛布にくるまって、ジャングルの夜の夢路についた。
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