チャロの野鳥
アルト・マドレ・デ・ディオス川を下ること7時間、中継地ボカ・マヌー(Boca
Manu)に着く。ここで船に給油をする。川岸の土手の上からおろされたホースから、船のタンクに燃料が注がれる。コックも上陸し、食料を調達しに出かける。
しばらくすると、両手に持ちきれないほど買い溜めして戻ってきた。中身を覗くと鶏肉とおいしそうな果物が見えた。
高台に上がってみると、近くに学校が見えたので行ってみると、生徒がサッカーの練習に夢中になっていた。ここでもサッカーは人気のようだ。
30分ほどして出発、チャロを目指す。川はここからマドレ・デ・ディオス川(Rio Madre de Dios)となる。
この辺りから川幅は一段と増して雄大な景観が広がる。空にはコンドルの姿が見える。景色に劣らず、巨大な羽を広げて舞うその姿は雄大だ(写真1)。
同じ猛禽類(もうきんるい)のミサゴが捕獲した魚を足で捕まえて舞い上がる。
川岸にもまた別の大型の猛禽類の姿が見える。船を近づけて眺めると、射止めた餌を食べているようだ。「ノスリ」の一種だが日本のそれに比べて一回り大きく見える(写真2)。
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Osprey(タカ科・ミサゴ)
足に捕獲した魚が見える |
ボカ・マヌーからおよそ1時間、今日の宿泊地チャロ(Charo)に着く。ボナンザを出発してからおよそ8時間。長い船旅を終え陸に上がる。ポーターやガイドに荷物を運んでもらっている間、桑島氏とロッジ周辺を見て歩く。ジャングルを切り開いたおよそ
8000坪ほどの敷地に藁葺き
(かやぶき)のロッジが8棟ほど建っている。
椰子(やし)の葉の茂る木陰で一休みしていると、ガイドが近くの湖に出かけようと言う。さっそく写真の器材を持って湖に向かう。しばらく歩くと、小さな沼のような池が広がってい
る。ボートの先端に三脚を据え、600ミリの望遠レンズを付ける。
ボートをこぎ出すと、岸辺の木立や水草の中からカラフルな鳥が飛び立つ。バードウオッチする分には問題がないのだが、いざ写真を撮ろうとすると、ことのほか大変だ。ボートが小さいため、
カメラを構えるわずかな動きでも、船が揺れて目当ての鳥にピントが合わせられないのだ。
400ミリ望遠レンズに取り替え、手持ち撮影に切り替えてみたものの、ユラユラと揺れる船の揺れに合わせるのはきつく、
10メートル先の小鳥はファインダーに捕らえるだけでも大変で、とても構図など考えている余裕はない。
チャロの小沼で、野鳥を撮る
ボートの揺れで、撮影は思うようにいかなない
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撮影を終えロッジに戻る。部屋で荷物の整理をしているうちに日が落ちて、辺りはあっという間に暗くなってしまった。暗闇の中では何も出来ないので、懐中電灯の明かりを頼りに食堂
に行くことにする。桑島氏が夜空を見上げて、すごい、すごいと叫んでいる。見上げると、そこには満天の星が輝き、天の真ん中を「天(あま)の川」が走っている。
久しぶりに見るアマゾンの夜空は壮観だ。「星がこぼれそう」とはこういう情景を言うのだろう。私の住む八ヶ岳高原も星は綺麗に見える
方だが、ここから眺める星空はその比ではない。天の川にかかっている蠍(さそり)座の少し横に南十字星が輝いている。3年前に南極の氷上から眺めた夜空が思い出される。桑島氏も初めて見る十字星に
感激のようだ。
食事の後も、のんびりしてはいられない。まだやらねばならない仕事が待っているからだ。持参したノートパソコンやCDに今日撮った写真を保存
。さらに主な鳥や動物の写真を選んで、その名前をガイドから聞きとり、一つひとつ書き込んでいかねばならない。薄暗い照明の中
、通訳を通しての作業はなかなか手間のかかる仕事だ。
一仕事を終えてベッドに入る。蚊帳(かや)の中から外を眺めると、椰子(やし)の葉陰に満天の星が輝いている。パソコンで疲れた目には最高の滋養である。
眠りにつくのがもったなくて今日一日の旅の情景を思い浮かべながら南国の夜を堪能する。
こんな暮らしを続けていたら、人生観や価値観がすっかり変わってしまうに違いない。暗闇のジャングルの中から聞こえてくる、夜鳴きの動物たちの声を子守歌にして夢路についた。
早朝目を覚ますと、森の奥からジェット機の騒音のようなグゴーという異様な音が聞こえてくる
。しかしここはジャングルの中である。文明の機器の音が聞こえるはずがない。
あとでガイドに聞くとそれはサルの鳴き声だという。何百というオスのサルがメスに向けて自分の存在を誇示するディスプレイなのだそうだ。それにしてもまだ
明けやらぬジャングルの奥から聞こえてくる雄叫びは、なんとも表現できない不思議な声であった。
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