第5日目
カサ・マチゲンガにはアポリジニーが経営するロッジがある。少し離れた村から交代で管理に来ている彼らは、実に気さくで飾り気がない。
もともと商売意識などない彼らのこと、置いてある土産物と言ったら、手作りの粗末な弓矢だけだ。物を売って金を得るという習慣がない彼らに、商売人根性を持てといっても無理というものだ。
乳飲み子を抱いた23歳になるという奥さんに、子どもは何人いるのかと尋ねたら、9人だという。当たり前のことだが、アボリジニーといえども1年に一度しか子どもは産めない。双子はいないというから、逆算すると13〜14歳
が初産ということになる。
そう言われて隣を見ると14〜15歳のあどけない娘さんが男の子どもを抱いている(写真4)。
彼女に、あなたの弟かと尋ねると、自分の子どもだという。どうやら彼らは12〜13歳で結婚し、すぐに子どもをもうけるのが当たり前のようだ。
24歳で9人もの子供
たちを育てながら、特段、生活苦に追われているようには見えない。抱いている赤子は丸々と太っているし、食堂に顔を出す子ども
たちも、決して食べ物をねだったりなどしない。そうした姿を見ていると、生活力は、我が国の 同年代の親たちより、彼らの方が上かもしれない。少なくとも、「心の豊かさ
」では彼らに軍配があがりそうだ。
彼らには、車もテレビも携帯もないではないか。住んでいる家は比較にならないほお粗末だろう。そんなレベルの人間と比べられるものか、と反論する
人もいるかもしれない。しかし、家や車のローンに追われて、ただあくせく働き続け、休みの日まで携帯電話で追いかけ回される生活を考えたら、
あまり大きな声で反論出来そうもない。
それより、無差別に幼い子どもの命が奪われる殺傷事件が日常茶飯事となっている我が国の現状を知ったら、彼らはなんと言うだろうか? しかし、そんな話を持ち出す勇気は
、私にはなかった。