クスコ西方の強力なチャンカ族との戦いに勝利し、インカ帝国第9代皇帝に即位したパチャクティー・ユパンキは、クスコ市を帝国の首都にふさわしい大都会として建設し直した。そのとき市の中心部となったのが、コリカンチャと呼ばれる「太陽の神殿」と、その前の広場であった。
この神殿の中には戦略品の宝物や、その他の国の貴重な財宝が納められていた。その為、皇帝一族と高位の神官以外は、めったに入ることが許されていなかったといわれている。
16世紀、コリカンチャをはじめて目にしたスペインの征服者たちは、神殿を囲む石組みの素晴らしさに驚くと同時に、建物の中に入った瞬間、息を飲んだ。それもそのはず、金銀財宝に憑かれてここまでたどり着いた彼等にとって、そこには夢のような世界が広がっていたからである。
神殿内には、金の石が敷き詰められた畑に、金のトウモロコシが植え付けられ、さらに等身大の金のリャマを連れた人間像も建っていた。又、太陽の祭壇には分厚い金の太陽像が安置されており、日の光を受けてまぶしいほどに輝いていたのである。
因みに、コリカンチャとはケチュア語(インカの公用語)で、コリ(Qori)「黄金」とカンチャ(Cancha)「居所」あわせた言葉である。この言葉の意味を知らずに入った人々は、さぞや腰を抜かんばかりに驚いたことだろう。
その後、スペイン人はこの宮殿にあった黄金の多くを、溶かして延べ棒にして本国に持ち帰ってしまった。どんな言い回しをしようと、征服者とは所詮そのような者に過ぎないのである。
この宮殿の宝以外も含めて彼等が略奪した黄金の量の凄さは、大量の金が一時期に流れ込んだ為に、スペインやヨーロッパで、インフレが起きたとされていることから想像できるというものだ。