エナガ・孵化(ふか)から巣立ちまで の20日間

4月のはじめ、八ヶ岳山麓に住む友人・斉藤氏から、近くの林の中に「エナガ」が巣作りを始めたという連絡を受けた。彼がエナガの巣を見つけたのは今年で4年目。しかし、過去3回はヒナが孵る前にヘビやカラスに襲われて巣立ちにまで至っていない。 野鳥にとって無事ヒナを孵(かえ)し、巣立てるのは容易なことではないのだ。

5月2日、親鳥がエサを運び始めたので、ヒナが孵ったようだと連絡が入った。訪ねてみると、今回の巣は2メートルほどの小さな「カエズカイブキ」の木の中段に造られていて、周りが葉に覆われてい るので見つけにくい場所だ。ここならカラスの目にはとまりにくい。あとはヘビに気づかれないことだ。

望遠レンズで運んでいる餌をみると、針の先ほどの小さなアブラ虫を集めたもので、ヒナが孵って間もなくであることは間違いない。その後、暇を見つけては足を運んで見ていると、雄雌がそろって、およそ7〜8分おき に餌を運んでいる。

普通の小鳥は雄雌が交互に餌を与える場合が多いが(中には雄雌のどちらか一方だけしか餌運びをしないものもある)、エナガはなぜか必ずと言っていいほど一緒にやって来る。 エナガは孵化から巣立ちまでおよそ17〜18日ぐらいだから、こんな状況がしばらく続くことになる。エナガのヒナはまだ見たことがないので、可愛らしい姿を是非見てみたいもの である。

訪ねるたびごとに、親鳥が口にくわえたエサがしだいに大きくなっていくのが分る。10日過ぎ頃から2センチほどの虫をくわえて巣に入っていく ところを見ると、ヒナもだいぶ大きくなっているようだ。ヘビが巣を狙うがこのころだという。

斉藤氏はヘビが嫌いなタバコの葉を水に溶かして木の周り3メートル四方に撒(ま)く。ここまで成長してヘビの餌食(えじき)になるのは忍び難い。なんとしても無事巣立って欲しいものだ。

予想される巣立ちの直前になると、早朝から夕方まで巣から目を離せなくなってくる。ヒナの様子によって巣立ちの目処(めど)がつくからだ。一緒に観察を続けている野鳥写真家の桑島先生によると、巣からヒナが顔を出し始めてから1〜2日後が巣立ちの目安だという。

新刊『人間死んだらどうなるの?』の原稿の締め切りも迫っており、早く仕上げてしまわないと巣立ちに立ち会えなくなってしまう。どうやら3〜4日、徹夜がつづくことになりそうだ。

ヘルパー出現

脱稿(だっこう)した翌日の18日から1日10時間の観察が始まる。望遠レンズで巣を覗くと大きく見えるが、実際の大きさは12〜3センチぐらいしかない。こんな小さな巣によく10匹ものヒナが入れるものだと感心する。おそらく折り重なるようにしているのだろうが、親の給餌 (きゅうじ)を平等に受けているのだろうかと心配になってくる。

その日よく見ると、給餌する親の数が3匹になっている。いったいどうしたというのか。驚いて斉藤氏に話すと、それはヘルパーが1匹加わったのだという。エナガは雄雌5組ぐらいが1 つのグループを作っているが、ヒナが孵らなかったり、途中で天敵に食べられたりしてしまった場合は、仲間の子育てに協力するのだという。

協調体制は人間と変わらない。いや最近の世の中を見ていると、人間より上かもしれない。そんなことを考えながら観察していると、19日にはなんと、ヘルパーがさらに1匹増えた。 4匹での給餌によりヒナは一気に成長する。

次回は、いよいよかわいいヒナの登場だ。

 

 

 

 

@

ヒナにやるエサを
くわえた親鳥。雄雌同色。体長14センチ。

 

A

前から見ると、綿を丸めたように見える小さな小鳥。背中にワインレットの羽と黒い尾。

B

北海道から九州まで留鳥として分布している。

 

C

巣に向けて飛び立つ。
背景のピンクは山ツツジ

 

 



新緑にツツジが映える

 

ヤブデマリ

ニセアカシヤの蜜を吸う「ヒョウモンチョウ」

ウスバシロチョウ