いよいよ巣立ち
18日から1日8時間の観察が始まる。望遠レンズで巣を覗くと大きく見えるが、実際の大きさは12〜3センチぐらいしかない。こんな小さな巣によく10匹ものヒナが入れるものだと感心する。おそらく折り重なるようにしているのだろうが、親の給餌を平等に受けているのだろうかと心配になってくる。
その日よく見ると、給餌する親の数が3匹になっている。いったいどうしたのだろうと驚いて斉藤氏に話すと、それは「ヘルパー」が1匹ついたのだという。協調体制は人間と変わらない。いや最近の世の中を見ていると、人間より上かもしれない。そんなことを考えながら観察していると、19日にはなんと、ヘルパーが
2匹になった。
桑島先生に聞くと、エナガは雄雌5組ぐらいが一つのグループを作っており、ヒナが孵らなかったり、途中で天敵に食べられたりしてしまった仲間が、子育てに協力するのだという。
20日早朝、7時45分小さな入り口から一匹のヒナが顔を出し外の様子をうかがい始めた。しばらくすると狭い巣穴から身をよじるようにして抜け出し、転げ落ちるようにして下の枝に止まる。たいていの小鳥は巣から
一気に飛び出していくが、エナガは巣が小さいこともあって、こんな出方をするのだろう。
大きさは4センチほどだろうか。小さな体と愛くるしい目が印象的だ。いよいよ巣立ちだとカメラを構えるがその後一向に後に続く気配がない。それどこころか、1時間ほどした8時35分、なんといったん巣立ったヒナがまた巣の中に潜り込んでしまった。
おそらく、飛ぶことが出来ず、巣の周りの小枝に止まっているだけだったので寒くなってしまったのだろう。こんなことをもう一度繰り返し、とうとうこの日は巣立ちの予行演習で終わってしまった。
ヒナは8匹だった
21日6時半に行ってみると、すでに2匹が外に出ており、親が外のヒナに餌を運んでいる。別の親鳥が来て巣の中のヒナに給餌。4匹の給餌体制が遺憾なく発揮されている。8時を過ぎる頃から次々と巣立ちが始まり20分ほどですべての巣立ちが終わった。
ヒナの数は8匹だったようだ。ようだというのは先にでていたヒナの数がはっきりしないからだ。
巣立ってしばらくは巣の周りの小枝に止まり、鳴いていたが、30分もすると次々と低い灌木を伝わって50メートルほど先の林の中へと飛び立っていった。それにしても、あんなに狭い巣の中で羽ばたきも出来ないはずの
ヒナ達が、こうして飛び立って行く姿を見ていると感心してしまう。
しばらくして巣の周りを見て歩くと、1匹のヒナが立ち木の下でうずくまっている。どうやら仲間につられて巣立ったものの、まだ十分に成長しておらず飛び立つことが出来ないでいるようだ。よく見ると羽ばたきはするものの、ほとんど飛び上がれず、地面をよちよち歩きしているような状態だ。
これでは他のヒナと離れてしまい親に置いてきぼりを食らうのではないかと心配になってきた。ところがしばらくすると、親鳥たちが戻ってきて残ったヒナがいないか探し始めた。藪の中にうずくまっている
ヒナが見つかるだろうかと気をもんでいると、か細い鳴き声を聞きつけて親鳥が餌を運び始めた。やれやれである。
3時間ほどすると、いくらか歩き方がしっかりしてきたように見える。しかし相変わらず飛揚するまでには至らない。それでも親鳥に誘われるままに、藪の中を這うように他の
ヒナの飛び立った方に向かって進んでいく。
1匹取り残されたこのヒナは今夜の冷え込みを耐えることが出来るのだろうか。親鳥が寄り添って暖めてやるのだろうか。ヘビには襲われないだろうか。
夕闇が迫るにつれしだいに心配になってきた。
不安な気持ちで翌朝訪ねると、20メートルほど離れた雑木林の中にあのヒナの姿を見つけることが出来た。ヤレヤレである。見ていると、今日も親鳥がせっせとエサを運んでいる。この調子だと、2〜3日すれば飛び立てるようになるに違いない。
無事の成長を願って家路についた。