霧氷を撮る
国連の安保理事会で行われた、イラク査察団の2回目の報告をラジオで聞きながら、車は厳冬の野辺山高原を走っていた。
予想通り、今回もまた、またブリクス委員長の査察結果には、大量破壊兵器の存在を証明する報告は含まれていなかった。しいて国連決議に違反するものと言えば、アルサムード・ミサイルの射程距離が、制限距離をわずか30キロメートルほどオーバーしているだけの話であった。
それでもまだ、ブッシュをはじめとする好戦症候群のアメリカ政府は、フセインを叩かねば「世界の安定」はないのだと、わめき散らしている。カナダの世論調査で、「世界平和への最大の脅威」のダントツのトップに立ったのが、アルカイダ、イラク、北朝鮮ならぬアメリカ自身だったことを知らせてやらねばならないようだ。
アメリカのイラク叩きの真の目的が、中東の平和やイラク国民の解放などでないことは、今や世界中の多くの人々が理解している。仮面の下の真実を明らかにするように、イラク戦争後の復興をアメリカ主導で行おうとする復興計画案を、ワシントンポストが明らかにしている。
それによると、反体制派各組織による政権構想とはまったく異なり、復興の第2段階まではアメリカ軍の占領下において、米国人による暫定文民政権が全てを牛耳ることになるのだという。驚くことに、イラク人による諮問委員会は意見具申を行うだけで、統治上、何の権限も与えられないのだという。当事国が意見具申の側にまわるなど笑止千万の話である。
これでは、アメリカが声高らかに唱えてきた「イラク国民の解放」や「中東の安全」など、まったくの空絵事に過ぎず、アメリカイズム(アメリカ的価値観・世界観)を世界中に広げ、イラクの石油を思うままに使用とする石油利権の臭いがむんむんとするだけではないか。
そんな、「きな臭い世界」とは裏腹に、野辺山高原、標高1800メートルの獅子岩山頂には、輝くほどの霧氷が広がっていた。目の前に展開する白銀と樹氷の世界を眺めていると、カーラジオが伝えるおぞましい現実の世界が、まるで嘘のように思われてくる。