カワガラス孵化から巣立ちの20日間

この頁は、3月の下旬から4月上旬までの、カワガラスの孵化から巣立ちまでを追ったレポートである。

私の写真の先生である桑島献一氏と、チョウゲンボウ(猛禽類)の巣を観察に行ったおり、カワガラスの巣を見つけた。双眼鏡で観察すると、すでに孵化しているようで、親が盛んに餌を運んでいる姿が見えた。

抱卵日数は15〜16日位、巣立ちまでの日数が21〜23日位というから、雛(ひな)の大きさから見て、 孵化した後14〜15日ほど経過しているようで、巣立ちまで1週間ぐらいだと思われた。

カワガラスは流れの速い浅瀬に潜って、カワゲラやカゲロウの幼虫などの水棲昆虫を主な餌にしている。カワガラスの産卵が他の野鳥に比べて早いのは、そうした幼虫が孵化する前の、餌の豊富な時期を選んでいるからであるという。

カワガラスは1月から繁殖期に入り、巣は滝の裏の岩の隙間や堰堤(せきてい)の水抜き穴などに作られる。それゆえ、雛に給餌する様子は滅多に見ることが出来ない。野鳥の図鑑に給餌の写真 が掲載されていないのはそのためである。

今回見つけた巣は、川岸の岩壁の突き出た岩陰に作られていたので、幸運にも、給餌の様子を観察し、撮影することができた。

遠くからの観察では問題がないものの、600ミリの望遠レンズ撮影が可能な距離まで近づくと、親鳥が警戒して巣に近づかず、給餌を中断してしまう。そのため思う距離から給餌の様子を撮影することができない。

そこで、時間をかけて少しづつ近寄っていき、徐々に慣らしていくことにした。その甲斐あって、次第にこちらを気にしながらも、餌を運ぶようになり、給餌の間隔も2〜30分かかっていたものが、4〜5分と短くなっていった。

巣の大きさを観察すると、直系は30センチ以上もありそうだ。親鳥の体長は22センチ、従って雛(ひな)も巣立ち直前には14〜5センチまでに成長している。ふつう卵数は4〜5個であるから、 巣もこのくらいの大きさが必要になってくるのだろう。

給餌の際に姿を見せる雛の数は3匹。4月8日、最初の2羽が巣立ち、翌日、午前中に最後の1羽が巣立った。ところが、その後も親鳥がさらに巣に餌を運んでいる。よく見るとまだ2匹の雛が残っている。

先に巣立って、巣の近くの川岸にいる3羽の雛と、巣に残った2羽の雛、それぞれに代わる代わる餌を運ぶ親鳥は大変だ。野鳥の専門書を見ると、多数の卵を産卵する野鳥の中には、全ての卵を一緒に抱卵するのではなく、順番を追って抱卵していくのだという。そのため雛に孵るのに3〜4日の差が出てくる ことになるようだ。

観察と撮影を続けていると3時過ぎ、突然、巣の下の川面で、親鳥が大きな警戒声を発し始めた。人間が近づいたときに発する警戒の鳴き声より一段と大きな声だ。不思議に思って巣の周辺を眺めると、なんと蛇が崖づたいに巣に近づいているではないか。

体長1メール60センチほどあるかなり大きな蛇が、体をくねらせながら巣の中の雛をねらって次第に近づいていく。 どうなるのかと、固唾(かたず)をのんで見守っていると、巣に近づいた蛇が頭を持ち上げ中に入ろうとした瞬間、2匹の雛が躍り出るように巣から飛び立った。

まさに危機一髪。親鳥が雛に飛び立てと命じたのだろう。まだ十分に羽ばたきが出来ない雛は、まるで転げ落ちるように真下の渓流の中に落ちていった。

普通の野鳥の雛ならこれで一環の終わりである。しかし、水中に潜って餌(えさ)を採るカワガラスの子どもだけあって、川面を双眼鏡で探していると、4〜5メートル ほど流された後、川面に浮かび上がり、器用に泳いで近くの石の上に上がろうとしている。

獲物をとり損ねた蛇は、さらに巣の周辺に逃げそこなった雛がいないかと探しまわっている。蛇が遠くに離れるまで、親鳥の警戒声は鳴きやむことがなかった。

さして太くない蛇が十数センチの雛を飲み込むことが出来るのだろうかと、桑島先生に尋ねると、蛇はこの程度の大きさの物なら、顎(あご)と頭蓋骨をはずして飲み込んでしまうのだという。

それにしても、川岸を這っている蛇がどうやって、岩壁の高台にある巣の存在を察知するのだろうか? 動物の本能には驚かされる。

こうして、難を逃れた5羽の雛たちは日に日に成長し、4日ほどすると親鳥ともども、別の場所へ飛び立っていった。

あと2週間もすると、チョウゲンボウの雛が孵る。次回の報告をご期待頂きたい。

 

 

八ヶ岳と南アルプスに挟まれた釜無川。

川沿いの木々も4月中旬に入ると、一斉に芽生え始める。

 

 

「七里ヶ岩」と呼ばれる川岸の絶壁が長野県から山梨県側にかけ、およそ30キロ続いている

川の絶壁7〜8Mの高さに カワガラスの巣が見える(中央の石の横)

 

 

全身黒褐色で、足が長く、尾は短めで上を向いている。

餌をくわえた親が巣と川面との中間の高さにある岩に止まり、雛に呼びかける

 

餌をくわえ巣に向かう。

飛揚する親鳥の姿が巣の下の石に陰を写している

 

 

巣では雛がクチバシを大きく開けて待っている

 

 

一度の給餌で、2〜3匹の雛に順次口移ししていく

まるで親鳥のくちばしまで飲み込むようだ

 

 

巣に迫る蛇、体長は1M60pほどであろうか

巣に入ろうと鎌首を持ち上げた瞬間、2羽の雛が飛び出した

 

 

 

蛇の来襲で飛び出た雛は川岸の石の上に飛び乗ろうと争っている。

 

岩の上に止まった雛も不安そうな表情

朝のうちに、時期が来て巣立ちした雛は、川の石の上で落ち着いている

巣立った雛にも、2〜3日は給餌する

 

 

あごがはずれそうなほど大きく口を開け、餌をねだる雛

 

川面をキセキレイが飛び交っている

対岸の川岸にテンが
現れた

テン