野辺山高原の夏鳥
6月下旬、梅雨が明けぬこの時期、水分をたっぷり含んだ木々はいよいよその緑を増して、夏の到来を告げている。高原のあちこちでカッコウの爽やかな鳴き声が響き渡る。5月中旬に南方から渡ってきたカッコウは今が繁殖の真っ盛りだ。
標高1345メートル、日本の鉄道の最高地点を過ぎると、そこには壮大な野辺山高原が広がっている。戦後間もない頃、八ヶ岳南麓に入植した人々が、血と汗をながして切り開いた広々とした畑に、キャベツやセロリが青々した葉を広げ始めている。
開拓の人々の入植時の辛苦を子供心に知る私には、広がる畑や牧草地を見るたび、野良仕事に従事する人々や彼らの1代前のお父さんやお母さんの御苦労を偲(しの)ぶことになる。
高原の奥に向かって走っている途中で、「ゴジュウカラ」と「コムクドリ」の巣を発見。なんと珍しいことに、一本の白樺に2階建てで巣を作っている。上段がゴジュウカラ、下段がコムクドリの巣だ。2種の野鳥がクチバシに一杯餌を加えて、交互に餌をやりに巣に戻ってくる。
同じ頃、桑島先生が「アカゲラ」の巣を見つけ教えてくれた。
桜の木の中段に開けた小穴に、雄雌が交互に餌を運び始めた。どうやらヒナが孵ったようだ。その後1週間ほどすると、巣から顔を出す可愛らしい雛(ひな)の顔が見えてきた。頭には赤い毛が生えているところを見ると、どうやら雄の雛のようだ。望遠で覗くと、巣の中にはもう一羽、雌の雛がいるようだ。
巣の発見から20日ほどした昼過ぎ、そろそろ巣立つ頃だろうと行ってみると、すでに一羽が巣立った後らしく、取り残されて一羽が巣の中から顔を出し、盛んに外の様子をうかがっている。どうやら親鳥が成長の早かった一羽を先に巣立ちさせ、林の奥に入って餌の取り方を教えているようだ。
夕方まで待っていると、ようやく親鳥のつがいが戻ってきた。見ていると、半日近く餌を与えられていない腹ぺこの雛を餌で誘って巣立ちさせ、しばらく小枝に止まらせて羽ばたきをさせたあと、親子3匹そろって、あっという間に飛び立って行ってしまった。
もう二度とこの巣に戻ることはないだろう。あっけないほどの巣立ちの後、我が子の旅立ちのような一抹の寂しさを感じながら、しばらく桜の老木の前に立ちつくしていた。
参考文献 : 『日本の野鳥』 (竹下信雄著 小学館刊)
『日本の野鳥』 (山と渓谷社刊)