コマドリを撮る
八ヶ岳高原にも初夏が訪れ、新緑がまぶしいほどに輝き始めた。
初夏を告げる鳥の中で私が最も好きなのは、コマドリである。というのは、この鳥は、その姿だけでなく鳴き声が大変美しいからである。日本三鳴鳥に数えられるコマドリは、「駒鳥」とも書くが、それは、繁殖期に樹上や横枝にとまって「ヒンカララ ヒンカララ」と鳴くその声が、馬の「いななき」に似ているところから来ている。
最近はその素敵な鳴き声もしだいに聞く機会が少なくなってきており、その姿を写真に撮るとなると、なかなか大変である。しかし、ありがたいことに、友人の写真家、桑島献一氏が今年も居場所を探し出して教えてくれた。
家から車で20分ほど走って長野県に入り、立場川の源流へと向かう。道中、八ヶ岳山麓は新緑に包まれ、艶(あで)やかな緑に彩(いろど)られた景色は、疲れた私の心を和ませてくれる。
同じ緑でも、深緑から淡い緑まで、その色合いは千差万別。いつものことながら、天の采配の凄さにはただただ圧倒されるだけだ。
桑島氏に教えられたコマドリのいるという場所につくと、確かに鳴き声が聞こえる。しかし、写真の撮れる場所にはなかなか近づいてくれない。来てもすぐに藪の中に入ってしまったりして、なかなか思うような場所にはとまってくれない。後は辛抱して待つしかない。鳥の撮影は鳥との我慢比べでもある。
今回の辛抱は、4日間、およそ20時間近くに及んだ。しかし、粘った甲斐があって、4日目にようやく幸運の女神がやって来た。
その日は、ミソサザエやルリビタキが近くの小川に水を求めてやってきた。その鳴き声が、縄張り意識の強いコマドリのかんに障(さわ)ったのか、て、すぐに近くの枯れ木や苔(こけ)むした石の上にとまって、
縄張りを主張して声高に鳴き始めた。待ちに待った待望の一瞬である。
なんと、30〜40分もの間、その場を離れず鳴き続けていた。こんなことは本当に珍しいことである。よほど縄張り荒らしが気になったに違いない。お陰で、あの心躍る
「ヒンカララ ヒンカララ」の鳴き声を堪能しながら、思い通りの何カットかを撮ることが出来た。まさに、至福の一時であった。