今回の旅は北海道は東の果て、凍てつくオホーツク海の知床半島である。 狙いの一つは流氷の浮かぶオホーツクならではの景観と、そこに舞うオオワシの撮影である。 流氷とオオワシの撮影は長年の夢であったが、流氷の流れ着く時期が年によって違う上に、一旦海岸に接岸しても、
強風によって外海に流れ出てしまうことがあるため、なかなかタイミングが合わず行くことが出来ずにいた。
今回は帯広講演会のスタッフの方や釧路市から何回も徳乃蔵に来館頂いている方のお力添えを頂いて、夢が叶えられたと言うわけである。 当初の予定では3月1日に出発する予定であったが、天気の様子で1日早めた方がよさそうだったので、急きょ、前日の28日に出掛けることにした。
釧路空港に向かう機内の中で描いた風景は、一面に広がった流氷とその上を飛び交うオジロワシとオオワシの姿、日の出に染まったオホーツクの景観。 しかし、そんなチャンスに遭遇するかどうかは、天気次第。 全ては龍~様のご手配を頂けるかどうかである。
28日、釧路空港に着いたのが夜の8時過ぎ。 早速、迎えに来て頂いた方の車で、目的地・羅臼(らうす)に向かう。 ここ数日、幾分寒さが和らいでいたため道路の氷結箇所が少な
く、夜間にもかかわらずおよそ3時間ほどで、無事宿泊先の宿に到着することが出来た。 流氷が海岸に留まっていてくれることと、朝の日の出が見られることを願って眠りにつく。
念願の流氷とオオワシに遭遇
2月に入って氷点下10度を下回る厳しい寒さが続くと、知床の岸辺には氷が張り始める。 そこに流れ着いて来るのがロシアのアムール川河口周辺に出来た氷の塊
。 およそ1000キロの海上を潮の流れに乗ってオホーツク海を渡って来るのだ。 それらの氷塊が海岸沿いの氷と一緒になっ
たのが知床の流氷である。
しかし、一旦流れ着いた流氷も風や潮の流れで動き続けているため、突然海岸を離れて洋上に流れ出してしまうことがある。
そのため、2月に入って流氷が流れ着いても、いつでもその姿を眺めることが出来るというわけではないのだ。 特に今年のように風の強い日々が続くと、昨日
まで見えていた流氷群が今朝は見えないということがあるので、遠方から来た撮影者は運を天に任せることになる。
早朝4時起きして港に向かう。 5時就航の遊覧船の出発に間に合わせるためだ。 どうにか天気はよさそうだが
周囲が暗くてよく分からない。 そんな暗闇の中を出航、街の明かりは見えないが漁に出掛ける船の明かりがちらほらと見える。 気温はマイナス10度程度だが
走るデッキの上の体感温度は更にきつい。 久しぶりに南極や北極海での撮影を思い出しながら、凍える手でカメラを握る。
しばらくして、暗闇の海に浮かぶ流氷が青白く見え始めた頃から、次第に空が赤く染まり出した。 うっすらと雲が
かかっている分、赤みが一段と増してなんとも美しい朝焼け空である。 その空の赤さに染まった朱色の海とそこに浮かぶ白い流氷群。
目の前に広がるのは、まさに願っていた通りの素晴らしい景観だ。 どうやら今回もまた龍~様にお力添えを頂いたようである。
今回は2回シリーズで羅臼を中心とした知床の旅を掲載させて頂くが、7年前に訪れた半島の反対側に位置するウトロ地方については、「厳寒の北海道2000キロの旅
A」に掲載してあるので、関心がおありの方はそちらをご覧頂けたらと思っている。
「オオワシ」と「オジロワシ」
知床半島で見かける鷲は「オオワシ」と「オジロワシ」。 ともに絶滅危惧種に指定され
た北海道と本州北部でしか見ることの出来ない貴重な鳥たちである。 国内では最大の鳥で、オジロワシに比べるとオオワシは一回り大きく、翼を広げると220〜250センチにも達する。
シベリアやサハリンから10月の末頃にやって来て、流氷が消える頃に国後島(くなしりとう)や択捉島(えとろふとう)を経由して、再び戻っていく。
ただ、オジロワシの一部は北海道で越冬するものもあるので、冬以外にも見ることは出来る。 両方ともサケやマス
、スケトウダラなどの魚類が主食で、カモや小型の哺乳類などもえさにする。 時には、流氷の時期にちゃっかりスケソウダラ漁のおこぼれにあずかる光景も見られようだ。
両者は一見したところよく似ているが、オジロワシの茶系に比べ、オオワシの翼は黒や黒褐色で、両翼に白い部分がある
。 一方、オジロワシにはそれがなく名前の通り尾の部分だけが白い。
またクチバシがオオワシの方がやや大きく、黄色の色が濃い。 両者は餌の取り合いなどすることもあるが、流氷の上では仲良く暮らしている。