照明に浮かび上がった突き当たりの両壁には、巨大な「ガス入り電球」にそっくりの照明器具をかかえた人間と、それを支える「高電圧絶縁器」と呼ばれるジェド柱、それに明かりの下で作業をする人や、手を取り合ってなにやら儀式めいたことをしている二人の女性の姿などが描かれた奇妙な壁画が、ほとんど無傷のまま残されている。
地下室の存在が一般には知られていなかったために、盗掘者による破壊や盗掘から逃れられたのであろうが、後世の研究者にとっては幸いであった。これまでに幾度となく写真で見てきたなじみの絵柄であるが、改めて、こうして間近で眺めて見ると、まぎれもなく照明電球を描いたものであることが実感される。
よく見ると、電球の中のフィラメントは蛇の姿で描かれているが、蛇とかコブラは古代エジプトでは、電気や稲妻のシンボルとされているものである。また右の端に描かれたヒヒの姿をしてナイフを手にした動物は、トート神と呼ばれる神の化身を表している。
トト神は魔法と知恵、すなわち古代の科学を象徴する神とされているが、「自ら発する光で暗闇を明るくする努力をした」とされている点を考えると、電気の神様のような存在である。