幻の鳥「ケツァル」を撮る
コスタリカを訪れた私には、「謎の石球」の取材の他にもう一つの大きな楽しみがあった。それは、バード・ウォチャーや野鳥写真家にとって夢でもある、メキシコからパナマ、コスタリカのジャングルに棲息する、幻の鳥「ケツァル」との対面であった。
1ヶ月のびっしり詰まったスケジュールを何とか調整して、なんとか2日間の観察時間を割(さ)くことができた私は、コスタリカの首都サンホセ空港に到着後、サベグレ自然保護区の熱帯雲雨林に向かった。
コスタリカは日本の九州と四国を合わせたほどのわずかな土地でありながら、カナダ、アメリカ、メキシコ全体の生息数よりも多い、850種もの鳥類と、世界の蝶の10パーセントに当たる1300種が生息している。
鬱蒼(うっそう)と覆った高地の熱帯雲霧林、低地の熱帯林、熱帯雨林などが国立公園や自然保護区に指定され、鳥類や蝶などが手厚く保護されているためだ。
グアテマラの国鳥として知られる「ケツァル」という鳥は、私の著書『謎多き惑星地球』で述べているように、マヤ文明の誕生時に登場する神人「ケツァルコアトル」(1万5000年前の大洪水で消滅した超古代文明の生き残りの賢者と思われる人物)の呼び名の元となった神聖な鳥である。
そんなこともあって、一度是非その姿を眺めてみたいと思っていたものの、世界に40羽ほどしかいないと言われる「幻の鳥」であるため、半ばあきらめていたところであった。
それだけに、今回のチャンスは何としてもものにして、一目その姿を見たいところだ。もしも、写真に収められたらと、重い400ミリの望遠も持参していた。しかし、撮影までは無理ではないかというのが、いつわざる心境であった。
サンホセ空港から車で3時間半、サベグレ自然保護区に到着した我々を待ち受けていたかのように、熱帯地方特有のスコールが見舞う。真っ黒な雲と降り注ぐ滝のように雨。話には聞いていたが、さすがに南国のスコールは雄大だ!
翌12日早朝、夜明けを待ってさっそくケツァルを探して山に入る。
私と岡部さん、それに運転手さんの3人が山に入って探すことおよそ1時間、まったくその姿を見られないまま、ややあきらめかけたその時、鬱蒼(うっそう)と茂る熱帯雲霧林の中に、色鮮やかな鳥の姿、望遠レンズを覗くと、まさしくそこにはあのケツァルの姿があった。それも、手持ちの望遠レンズで撮影可能な距離の枝にとまっている!!
濃い緑色の背中と明るい緑色の長い尾羽、強烈な朱色した腹部、黄色のくちばしと黒く輝く愛くるしい目、・・・・・・・海草のようなシダ類がからみつく熱帯雲霧林の枝にとまるその姿は、まさに息を飲むようだ。
この時期は繁殖期を過ぎているため、、体長(40センチ)の4倍にも達する鮮やかな尾羽の長さがやや短めであるが、それでもその姿は実に美しい。珍鳥として世界中のバードウォチャーや写真家があこがれるのが得心がいく。
興奮の中でシャッターを押し続けること、およそ5時間。疲れなどまったく感じられないあっという間の撮影時間であった。
2日間の時間の大半をケツァルの撮影に費やしたために、コスタリカに棲息する他の野鳥の撮影に時間を割くことができなかった。それでも、我が国では見られない「ハミングバード(ハチドリ)」など色鮮やかな小鳥たちの何羽かを撮ることができた。
掲載した写真をご覧頂きたい。