ククルカンのピラミッドと
秋分の日の奇跡
「旧チチェンイッツァ」を見た後、ジャングルを抜けて再びククルカンの建つ広場に戻ると、なんと空は一面に晴れて午後の太陽が燦々と輝いているではないか。「春分の日の奇跡」を前にした文字通り、奇跡的な天候の回復であった。ククルカンの前に来ると、既にピラミッドの北側の階段に巨大な蛇が身をくねらせるかのように見える謎の幻影が始まっていた。
その姿を見たときのうれしかったことといったらない。しばらくの間、目の前に映り出される謎めいて感動的な映像を、言葉もなく静かにそしてじっくりと眺め続けた。
ククルカンのピラミッドの北側の中央にある91段の階段の最下段に、大きく口を開けた大蛇の頭部の彫像が置かれている。普段この頭部像は胴体から切り離された飾り物にしか見えない。ところが、春分と秋分の日の2日間に限り、午後の太陽がピラミッドの北西の角の石積みに当たって出来る影によって、階段の西側側面に胴体部分が現れる。
そこには、あたかも身をくねらすような大蛇の見事な胴体が浮き彫りにされ、最後に頭部像と合体し、ククルカン(羽根のある蛇)像が完成するのだ。
マヤ人が天体観測から得た知識を、ピラミッドに驚異的な精度で反映することによって成し遂げられた、、この光と陰が織りなすククルカンの幻影は、彼らがいかに高度な天文知識と数値計算力、それにピラミッド建造技術を保持していたかを如実に物語っている。
階段の縁に出来る三角形の影は、しだいに鮮明さを増しながら下段に向かって進んでいく。3時過ぎに始まった現象は、およそ2時間ほどかかって最終段階に向かっていく。その姿は、巨大な羽根のある蛇、ククルカンがピラミッドの頂上部にある神殿から地面に降りてくる様を見事に再現している。
長時間にわたって繰り広げられた幻想的な現象は、最後に見事、胴体が頭部の彫像に合体して終わりとなる。正確な始まりと終了の時間を確認することは出来なかったが、正確には、3時間と22分間継続されるといわれているこの現象は、千数百年前とまったく同じ時間に始まり、同時刻に終わったに違いない。
数百年の間、
チチェンイッツァのマヤ人たちは、春・秋分の日、この地に集まり、ピラミッドの最上段に設けられた神聖な神殿から、彼らの信じる神「ククルカン」が羽のある蛇の姿となって階段づたいに降りてくるのを眺めて、喜びと安堵の気持ちを分かち合ったのであろう。
ホテルへの帰路につく
チチェンイッツァを去るのを惜しむようにバスに乗り込むツアーの一行の顔には、、幸運にも、「秋分の日の奇跡」に遭遇できた喜びと満足感がみなぎっていた。帰路に就くバスの中で、現地のガイドさんから、ここ3年ほど春・秋分の日は曇天続きで、今日のようにきれいに現象がみれることはなかったそうですと、聞かされ尚更その喜びはひとしおであった。
幸運は更につづく。興奮さめやらぬ我々ツアー一行に、ククルカンを照らした後、西の空に沈みゆく太陽は、再び素晴らしい「一大ショウ」をプレゼントしてくれたのである。というのは、30分ほどサバンナの中を走ったバスの前方に突然壮大な夕焼け空が現れ始めたのである。
バスの中に大歓声がわき起こる。私の長い人生の中でこれほど雄大で美しい夕焼けを見るのは初めてであった。しかもそれが延々30分以上もつづくのであった。掲載した写真を見ていただければ、その時の感動を皆さ
んにも分かち合って頂けるに違いない。
今回の旅行は、いい旅になりそうだ。