5時起きしてオンネトー湖に向け出発。オンネトー湖の名前は6月に「十勝平野B」に掲載したので、読者も覚えておられることだろう。
北海道が90年ぶりの熱さ、37.8度に見舞われた日のことであった。その日と逆さまで今度は希に見る寒さ、早朝の気温は5度。10月の7日だというのに、厚手のセーターが欲しいほどだ。
いくら北海道とはいえこの寒さは異常だ。
どうやら今回もまた異常気象を体験する旅となったようだ。しかし、この低温が幸いして宿から出るとあたりは一面霧の中。ゆっくり車を走らせながら周囲を見回すと、
あちらこちらに普段滅多に見られない霧にかすんだ幻想的な世界が広がっていた。何が幸いするか分からないものだ。
広大な畑に霧がかかった風景や、収穫を終えた後の黒い大地からゆらゆらと蒸気が立ち上る情景は、広大な農地が広がる北海道ならではの風物詩である。これもまた、
カメラマンにとっては天からのビッグプレゼントだ。 6月に訪ねた際には、木々の緑がコバルトブルーの水面に映り、息をのむような景観が広がっていたオンネトー湖、今回映り込んでいるのは艶やかな紅葉だ。
オンネトー湖周辺での撮影を終えて帯広空港に向かう途中、帯広講演会スタッフの鈴木智子さんの畑に立ち寄ることとなった。
畑作農家の鈴木さんが所有する農地は実に広大だ。その広さに比べると我が家の畑など家庭菜園以下である。当日はちょうど小豆(あずき)の収穫の真っ最中で、コンバインで刈り取られ脱穀された小豆が次々と運送用トラックに積み込まれて、瞬く間に満杯となっていく情景を目にすることとなった。
イクラは「海のダイヤ」、一方「畑のダイヤ」は小豆である。 鈴木さんから、そんな小豆が満載されたトラックの荷台に乗って、横になってみてはいかがですかと誘われた。なんでも体験しないと気が済まないのが私の信条。さっそく靴下一枚で
荷台に上がり、大の字になって寝てみた。小豆の山はダイヤの山、まるで積み重なった札束の上に寝ているようで、一時ながら億万長者の気分を味わうことができた。
そこまではよかったのだが、立ちあがって車から降りようとしたところ、セーターやズボンのポケット、さらには脚の中にまで入った小豆がぼろぼろこぼれ落ちて大変。 それどころか、シャツの下に入った小豆は飛行機の中で背中や腕に当たって
、こそばゆいやら痛いやら。最後には、我が家の湯船の中にまで小豆が浮くことに相成った。レモン風呂ならぬ小豆風呂である。いやはや、生涯の思い出となる、なんとも貴重な体験であった。