子リスと鴨のヒナ
天気に恵まれた3日間であったが、幸いにも4日目の帰宅の日もまた、更なる幸運に恵まれることとなった。同行して頂いた佐々木氏が、もしかすると、エゾリスが姿を見せてくれるかもしれませんから、明朝早出して近くの神社に寄ってみませんかと言われた。
この神社ではエゾリスが子供を生み育てることがあるらしく、動物写真家の撮影スポットになっているようである。ただ今年は、フクロウが棲み着いて子育てをしていたので、リスは
しばらくの間、場所を移してしまって姿を見せていなかったようである。この日は千歳経由で帰宅する予定だったので、札幌に向かう途中「見れたら幸い」と思って立ち寄ってみることにした。
神社に着いて、毎年子育てしているという辺りを見て回ったが姿が見たらなかった。すると、少し離れたところにカメラを構えた人が集まっていたので近寄ってみると、小さな池があり、そこには珍しい
「カワアイサ」という鴨と孵ったばかりのヒナたちがいた。
カワアイサは他の鴨には見られない特徴を持っており、川に近い場所に穴の開いた木を見つけて、そこに巣を作り、ヒナが孵えって成長すると巣から地面に落として川に放つ
という、珍しい特性を持っている。我が国で繁殖するのは北海道に限られているので、かわいいヒナたちの姿を写真に収めようと思ったら、この地
を訪ねるしかない。
神社の小さな池は十勝川支流に通じており、木から落とされたヒナたちは先ずはこの池で一時を過ごし、水に慣れてから川に向かって泳ぎ出すことになるようだ。ちょうど私たちがそこを訪れた時、水浴びした5匹のヒナたちは岸辺の岩の上で
、親鳥と一緒に一休みしている最中であった。しばらくすると、親のあとを追ってヒナたちが池に入りほんの一時泳いだ後、あっと言う間に川に向かって泳ぎ、姿を消してしまった。
その間ほんの15分か20分であっただろうか。関西方面や東京周辺から撮影に来られた方もいたようだが、たまたま立ち寄ることになった私が、そんなわずかな時間に巡り合わせて頂いたのだから、これ以上の幸運はない。長い間、野鳥を追ってきた私から見ると、
天からのプレゼントとしか言いようがない巡り会いであった。
幸運はさらに続いた。思いがけない撮影チャンスに恵まれて、心浮き浮き気分で帰ろうとした時、佐々木氏が「あっ、子リスがいる!」と叫んだ。木立の中を見ると、
先程までまったく姿を見せなかった小さな子リスが親リスと一緒に木の枝を飛び回っているではないか。
急いでバッグからカメラを取り出し、撮影に取りかかった。幸いにも周囲に人の気配がなかったこともあって、木の上だけでなく、タンポポの生い茂る草地の中を飛び回る珍しい姿も撮ることが出来た。それにしても、もしも到着時に
リスたちの姿を見かけていたら、リスの撮影の間に鴨は立ち去ってしまい、カワアイサに出会うことはなかったに違いない。なんとも幸運続きの、感謝、感謝の
4日間であった。
帰宅した数日後、鈴木さんから届いたメールには帯広を離れた翌日から天候は一変し、曇りと雨の日の連続で、雲一つなかった5日間がまるで嘘のようですと、記されていた。
因みにニュースを見ると、札幌では雨の日が21日間つづき観測史上最多となっており、私が北海道を離れた翌日から天候は一変してしまったようである。