20日間の奇跡
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サナギから蝶へ羽化(うか)する一瞬 (クリックで拡大)
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オオムラサキセンターの内部には、数十本のエノキの木が植えられているが、およそ300羽のオオムラサキが棲息しているため、生育には樹液だけでは
不十分である。そのために、林のあちこちに樹液に代わる飲料が置かれている。
興味深いのは、この飲料はカルピスを溶かした水であるが、その中には日本酒や焼酎などのアルコールが加えられていることである。担当者は、小量のアルコールが入った水の方が、
オオムラサキが長生きすることが確かめられているのです、と語っていた。どうやら適度のアルコールが体に良いというのは、人間だけではなさそうである。
11ヶ月に渡るオオムラサキの成育過程で一番の驚きは、前回見て頂いたように、「6齢幼虫」から脱皮して「サナギ」に変身した直後から身体が溶け始め、いったんドロドロになった後、改めて蝶としての身体に生まれ変わることである。その間およそ20日、サナギの外皮の内部では、信じ難い驚異的な生命の営みが行われているのである。
このサナギ化した幼虫が熔けてどろどろに液化するのには、どんな力が働いているのだろうか?
モンシロチョウやオオモンシロチョウの実験から、それは
「ピエリシン」と呼ばれる成分であることが分かっている。驚くことに、このピエリシン
によって人間の癌細胞が壊死(えし)することが確かめられ、現在、国立がんセンターで癌治療薬として実用化に向け実験を続けている最中である、という。
なぜそんなことが分かったかというと、たくさんのサナギを集めては羽化させていた国立がんセンターの無類の蝶好きの研究者が、
羽化する前にいったんサナギ化した身体が溶解してしまう点に着目し、調べているうちにピエリシンのガン細胞に対する働きが確かめられたというわけである。
現在、癌治療で使われている抗ガン剤はガン細胞だけでなく、正常な細胞までも破壊させてしまう。
そのために、他の内臓がやられたり、髪の毛が抜けたりしてしまうわけで、これでは治療しているというより身体を破壊しているようなものである。
しかし、サナギはいったん溶解した後もさらなる成長を遂げ、蝶へと変身している。その点を考えると、このピエリシンは必要以外の細胞を壊死させることはなさそうである。現在続けられている実用化に向けての実験が、一日も早く日の目を見ることを願うところである。
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(羽化から30秒)
サナギの下部が裂け始め
羽化が始まる
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(1分30秒)
頭部と羽の一部がが
見え始める
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(2分15秒)
身体の半分が抜け出すと
あっという間に全身が現れる
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(2分30秒)
最後に現れた足で外皮に
つかまり、身体を回転させ
ながら、羽を広げ始める
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4〜5秒間、このような
状態でじっとしている |
(2分50秒)
胴体が膨らんでいるのは、
羽に送り込む体液が保管
されているからである
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(3分10秒)
しばらくすると、身体を回転
させながら縮んでいる羽に
体液が送り込まれる
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(5分)
羽の血管に体液が
送られるに連れ、縮んでいた
羽がしだいに延びてくる |
羽が乾くまで、2時間半ほど
このままの状態で静止している
こんな神秘的な成長を遂げ
ながら、たった2週間の短い命で
この世を離れてしまうのだ。 |
オオムラサキ3態
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雄の羽の色はブルー
がかっている
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体長は雄の方が雌に比べて
3センチほど小さい |
雌の羽は全体的に黒い。
羽化は雄より
10日〜2週間ほど遅くなる |
★ 裏バネの色は黄色型と白色型があり、北の地域に行くにしたがて黄色型が多くなり、
南に行くに連れ白色型が多くなる。八ヶ岳山麓のオオムラサキは黄色型の方が多い。
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