フランツ・ヨーゼフ諸島・ベル島へ上陸
8月22日(木)
朝7時過ぎ、北緯79度55分・東経45度15分、フランツ・ヨーゼフ諸島の南端に到着。うっすらと曇っていた空も次第に晴れ、島への上陸にはもってこいの天候となる。
8時:00分、ヘリコプターで上陸が始まる。およそ10数分でベル島に上陸。この島の名前は遠くから眺めたときベル(Bell)の形によく似ていることから付けられたものらしい。
島の高台から海上に向かって押し出した巨大な氷河が眼前に広がる。海面からの高さはおよそ40メートルほどだろうか。南極の棚氷とは異なり、まるで巨大な河の先端が氷結したようにみえる
海岸の岩場には、北極圏全体でよく見られるコケ類が地面を這うように所々に生えている。
コケ類は根がないことから植物界でもユニークな存在として知られているが、一つの個体の中に二つの生物が存在することによって生命を維持している。つまり、上部が「藻」で下が「菌」という相利共生の関係にあるというわけだ。
下部の菌はスポンジのような土台となって岩にへばりついて上部の藻のために水分を貯蓄し、上部の藻はそのお返しに、その葉の部分から太陽の光や水分、養分を吸収して下部の菌に分け与えている。自然の摂理はなんとも不思議な物だと感心してしまう。
コケ類は生長するのが著しく遅く、中には年に1ミリしか延びないものもあり、条件が悪いとまったく成長しないこともあるという。しかしその生長期間は途方もなく長く、中には推定4000年も生きているものも発見されている。
このようなコケ類にも一つだけ弱点があって、清澄な空気を必用とし、空気が汚染されると簡単に枯れてしまう。それゆえ、コケ類は空気の汚染度を知る上で貴重な指標となるのだという。
セイウチを発見
ブリッジから、次第にその数を増してくる流氷を眺めていると、小さな氷の上に乗った三匹のセイウチを発見。よく見ると親子のようだ。セイウチはトドやアザラシとは違う科に属るが、トドのように前ヒレ足で立ったり歩いたりすることができるし、アザラシのように、後ヒレ足を舵として使うこともできる。
彼らは北極圏北部の太平洋と大西洋の沿岸部、シベリアの北海岸沿いなど広いエリアに住んでおり、かっては日本の八戸沖で捕獲されたこともある。最大の生息地は、べーリング海とチュクチ海だという。
浅い海を好み、多くの時間を陸や氷の上で、にぎやかに群れをなしながら寝そべって過ごす。北極圏のヒレ足動物の中で最大かつ一番体重が重く、体長は大きいもので長さ4メートル、重さ2000キロにもなるという。別名を海象(かいぞう)と呼ばれるのはこのためだろうか。
二本の鋭い牙を持ったその姿は見たところ獰猛な肉食獣の思えるが、ヒョウアザラシなどと違って小型動物(ペンギンやアザラシ)を襲うことなく、海底を主な餌場とし、強大な牙で海底を掘り起こし、貝などの軟体動物をたべる。中でも好物はハマグリなどの二枚貝で、中身を吸いだし貝殻をはき出す。
セイウチの特徴である二本の牙は、生後4ヶ月で生え出し、雄で1メートル、雌で60センチほどになる。この牙は餌を取るだけでなく、ホッキョクグマから身を守ったり、流氷の上に重い身を引き上げるためにも使うらし。
生息数は乱獲により激減したが、現在は保護されており増えつつあるようだ。
午後4時過ぎ、カーム湾に浮かぶルビニロック島の切り立った岩壁に近づくと、100メートルを超す切り立った岩壁に『ホッキョクカモメ」や「ミツユビカモメ」、「ハシブトウミガラス」などの営巣地が見えてくる。
これらの鳥は足場の良いところではホッキョウギツネに襲われるため、彼らが近づけない断崖絶壁に巣を作るのだという。近づいてみると、そこには数千匹の海鳥が群生し、鳴き声がうるさいほどだ。それでも、一時に比べるとその数は大分少なくなっているのだという。
ホッキョクグマと遭遇
就寝前の22時頃、「ホッキョクグマ発見」の船内アナウンス。22時とは言っても北緯80度を超したこのエリアでは完全な白夜で、日は沈まず薄暮の状態が続いている。急いで甲板に出てみると一頭の若い白クマが、氷上をゆっくりと歩いている。乗船後こんなに早くホッキョクグマに遭遇出来るとは思わなかっただけに少々慌ててしまう
船の姿を見ても恐れることなく、しばらくの間周辺を離れずにいる。しかし、薄明かりと少し距離が離れているため、残念ながら400ミリの望遠でも鮮明な写真は無理のようだ。次回、明るい中での遭遇に賭けることにする。(ホッキョクグマの写真は次回に掲載します)