早朝、最上階のデッキに上がると、昨夜降った新雪でうっすらと雪化粧している。前方に朝の陽光に照らされたアポロノフ島の氷河とストリチキ島の絶壁が見える。両島の海峡には大型の卓上氷河が浮かんでいる。
昨日いったん79度まで南下した船は、セイウチを見ようと再び北上し、今朝は北緯81度09分、東経58度17分にある。
朝の気温はマイナス5度。北極点を目指していた1週間前に比べると、同じ緯度でありながら既に5度ほど下がっている。流氷の数も多くなっているようで、短い夏が終わり日ごとに寒さが厳しくなっていくのが実感される。
朝一番に、セイウチを見にストリチキ島沿岸に向かう。海面を走るゾーディアックの上の体感温度は氷点下10度を下回っているのだろう、カメラを抱える手が凍るようだ。
海岸に近づくと、数頭のセイウチの姿が見えたが、我々が近づくと間もなく氷の下に隠れてしまう。見事な二本の牙と貫禄の髭が巨大な姿を愛くるしくしている。クルージングしながら、もう一度その顔を見ようと探したが、時々海面に顔を出すだけで十分に観察することができない。
周囲に、幾つかの氷山が浮かんでいるのが見える。南極のように大型のものは少ないが、それでも思っていたより大きく、数も多いようだ。時々見える卓上型氷河は、高さが20メートル、長さは200メートル近くある。
寒さのためデジカメや小型カメラで撮影している人は、電池切れによる操作不良で困惑している。幸い私のカメラは異常が出ず、撮影が続けられている。カタログでは使用の限界が零度となっているが、ホカロンで暖めながら使うと10度を超しても十分耐えられ相違だ。
いつもより夕食の時間を早めにして、夜10時からヘリコプターでガッラ島、テゲットホフ岬へ上陸。日本人として初上陸のこの島は130年前ハンガリー・オーストリア帝国の探検隊によって発見されたものだ。曇り空のため多少暗い感じがするが、陽の落ちることのない今は、上陸に別段障害はない。
ヘリに搭乗して7〜8分、眼下に険しい山脈が連なる岬が見えてきた。テゲットホフ岬だ。旋回するヘリからの展望は抜群で、荒涼とした北極海に浮かぶ岬と押し寄せる白波を眺めていると、まるで水墨画の世界を見ているようだ。
厳冬の北極を想像しながら海岸を散策する。ヘリからの写真は次回掲載。
明日は、最後の探索地、ノバヤゼムリア諸島を訪ねる。