ルメール海峡
早朝4時に目が覚め部屋の窓から外を眺めると、夜明け前のダークグレーの景色の中に雪に覆われた島々が浮かんでいる。身支度をしてブリッジに上がってみると、船はルメール海峡(Lemaire
Channel)の入り口に錨を降ろし停泊していた。ルメール海峡は、パラダイス・ベイと並んで世界で最も美しい自然港と言われており、今回のクルーズのハイライトの一つだ。
海峡を北上し始めたイヨッフェ号の最上階のデッキで、熱いコーヒーと軽食のサービスを受けながら両舷に展開する南極圏の雄大なパノラマを堪能する。気温は3,4度かと思われるが船の進行に伴う風を受けて体感温度は零度以下の寒さだ。防寒具をまとっていても頭部はかなり冷たい。熱い飲み物が救いの神だ。
時たま両舷にミンク鯨が潮を噴きながら回遊している姿が見られるが、海上に浮いている時間が短くて、思うように写真撮影が出来ない。
ピーターマン島上陸
朝食後、いよいよ最初の上陸である。島々や大陸への上陸には、ソディアックと呼ばれる頑丈なゴムボートに乗り、それで上陸地点の海岸に着けて上陸する。
3階のデッキで救命具とつけ、保温の効いた長靴に履き替えて、タラップを降りる。海上では12名乗りのソディアックが待機している。湾内を自由自在に走り回るソディアックはフランス製で、世界中の海軍が使用しているほど安全度の高いゴムボートである。因みにエンジンはヤマハを使用していた。
波の上を跳ねるように進むと、ほどなく最初の上陸地点、ピーターマン島が近づいてきた。上空には「大盗賊カモメ」が群をなして飛んでいる。初の上陸も、前日の訓練通りのやり方で降りると、足下はあまり濡れずにすんだ。
上陸すると、額の両サイドに三角形の白い斑紋がついた「ジェンツーペンギン」が迎えてくれた。南極憲章によってペンギンには5メートル、アザラシ、オットセイには15メートル以内には近づくことが禁じられている。しかしペンギンの雛は人間を恐れないので,たたずんで写真を撮っていると、いつの間にか足下に寄ってきて物珍しそうに眺めたり、長靴をつついたりする。この場合は不可抗力ということで許してもらうしか手はない。
島の海岸沿いにあるルッカリー(営巣地)には、数十匹から数百匹の親子がほぼ子育てを終えて、島を離れる時期を待っているようであった。
近くにはアザラシがおり、時々ペンギンを威嚇して楽しんでいる。上空を飛ぶ大盗賊カモメは、大きなものは羽を広げると3メートルほどのものもおり、すきあらば抱卵中のペンギンの卵や雛を狙ったりする。ペンギンにとっては天敵である。