デセプション島上陸
イヨッフェ号は南極半島を離れ北上し、南シェトランド諸島に向かう。早朝、馬蹄形をしたデセプション島の湾内に入る。デセプション島は火山島で、カルデラの外輪山の一部が崩れたような形で、外海と内海がつながっている。
ネプチューン・ペロウと呼ばれる湾の入り口の幅は600メートルほどだが、5000トンクラスの船の航行出来る幅は160メートルと非常に狭く、艦長や航海士の腕の見せ所である。
デセプション島は、1800年代初頭からアザラシ狩りや捕鯨の基地として使われて来た歴史の古い島である。その後イギリスの南極観測基地としても利用されてきたが、1967年から70年にかけて起きた火山爆発で観測隊は引き上げて廃墟となっており、現在は、チリとアルゼンチンの夏基地が置かれている。
イヨッフェ号から眺める湾内の眺めは、廃屋や放置され石油タンクが散在し、茫漠とした寒々しい風景であった。
ポンド山に登る
上陸した我々は標高500メートルほどのポンド山に登る。たかが500メートルと思って気楽に登ると大変なことになる。我が国にある一般的な山と違って、すそ野がなく一気に急斜面を登り始める。その上新雪を交えた雪が積もっていて、膝まで沈む。根雪の場所は滑って歩きにくい。
ほとんど休憩なし1時間ほどかかってようやく頂上にたどり着いた。ペレグリン(Peregrine)社のスタッフは思いきった計画を実行する会社だということが、いやというほど実感された。他社ではここまでのチャレンジはさせないでしょうと、野口氏が語っていた。
しかし、ペレギリン社はだてに雪山登山をさせたわけではないことがすぐに分かった。「苦の後には楽あり」の喩え通り、登り切った山頂からの360度の展望は素晴らしいものだった。東の彼方には南極半島の白銀に輝く山々が連なり、海上には大小の氷山が浮島のように漂っている。眼下には湾内の観光を終え、ネプチューン・ペロウを抜けようとしている他のクルージングの船舶が見える。
何枚かの素晴らしい景観を写真に収めた我々は、下山を始めた。
露天風呂に入る
この島は火山島であるために、海水が温水プールのように温かい。そのため水着に着替えて露天風呂ならぬ温水浴を楽しむことが出来る。砂浜から温泉がしみ出して海水と混ざり合って温水となるのだが、適温となるタイミングが難しい。引き潮過ぎると熱すぎるし、満ち潮だとぬるま湯となってしまう。
実際に入浴してみると、足下の砂浜は熱すぎ、海水は冷たく、とても温泉気分を味わうようなわけにはいかない。それでもアルゼンチンのホテルで風邪で参っていた自分が、今こうして南極の温泉に浸かっている。まるで嘘のようだ。
温泉ならぬ海水からあがった人たちが、タオルにくるまって震えている。考えてみればここは草津ではない。南極だ!