撮影初日は曇り空と霧に見舞われ、宝剣岳や千畳敷カールの緑に覆われた夏景色を撮影することが叶わなかった。 その
夜は山頂にある「ホテル千畳敷」に一泊し、明日の天気に期待することにした。 しかし、夜に天気予報を見ると朝から曇り空となっており、期待していた青空は望み薄のようであった。
そこで、金龍様に早朝だけでもなんとか朝焼けの景色を見せて頂きたい、とお願いをして床に就いた。 早朝4時45分、携帯の目ざましに起こされてカーテンを開けると、なんと東南の空には青空が広がっており、深紅の朝焼けが始まろうとしているではないか。
家族を起こして急いで外に出る。 思わずカメラを握る手に力が入った。 どうやら金龍様が願いを叶えて下さったようである。 ホテルの見晴らし台から眺める南アルプス連峰と
その手前の空に漂う雲海。 そしてその上空には見事な朝焼け雲が輝き、写真を撮る者にとっては胸が高まる絶景だ。
そして、朝焼けが終わり始めたころ、目の前に連なる中央アルプスの一角から太陽が昇り始めた。 ご来光である。 遠く東の彼方に浮かぶ八ヶ岳連峰の上空に漂う雲が黄金色に輝き始め、上空に向かって伸びた龍神雲が紺碧の空に白く輝き始めた。
しばらくすると、遠い彼方に青く染まった南アルプス連峰の山々が浮かび、手前の白く輝く雲海とのコントラストが映える。 連峰の東の端には見慣れた甲斐駒ケ岳の姿が見え、西の端には霊峰富士山がうっすらとした青色の山頂を浮かばせている。 標高2600m
の高地ならではの絶景である。
その後、千畳敷カールを下に降りて濃ヶ池に向かう。 そこから宝剣岳を見上げると、そこには氷河によって削られたカール状の山肌に咲き誇る高山植物
の雄大な景観が広がり、この時期でなければ目にすることのできない、緑色に輝く夏景色が浮かんでいた。
念願の景観を撮り終えて時計を見ると6時半。 朝食にホテルに戻ろうとカールを登っていると、峰々も周囲もあっという間に霧と雲に覆われ、景観は一変。 金龍様
のお力添えで見せて頂いた1時間半余の絶景の見納めである。 台風を東から西に逆行させることのできる龍神様ならではの、まさに文字通りの神業であった。 感謝!感謝!である。
徳乃蔵の休日を利用して、山肌一面が黄金色に染まる秋景色と、紺碧の空に白銀に輝く宝剣岳の冬景色の撮影に出かけたいと思っている。 なにしろ標高2600mを超える高地であるからして、
数少ない休日が絶好の写真日和と重なるのは難しそうだが、出来ることなら、再び金龍様にお力沿いをお願いしてチャレンジしてみようと思っている。