白馬町は長野県の北の外れに位置し糸魚川迄わずか40キロ、もうすぐ日本海である。白馬駅を過ぎてさらに北に向かって進むと、白馬の特産品である「紫米」を栽培している山村集落「青鬼(あおに)」に出る。わずか20数軒の集落で、そこには江戸時代末期以降に建てられた
「かやぶき屋根」(現在は鉄板葺き)の民家が建ち、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
この時期、多くのカメラマンがそこを訪ねるのは、白雪の残る北アルプスを背景にした棚田の風景を撮影するためである。
この棚田は日本の棚田百景に認定されており、前回(5月13日)訪ねた際にはまだ田植え前であったが、今回の訪問時(5月23日)にはのどやかな
田植えの後の風景が広がっていた。
途中大町の鷹狩り山に立ち寄ったため、青鬼集落に到着したのは9時前。残念ながら稜線に少し雲がかかり始めていたが北アルプスの山並を背景にした棚田の景観を
撮影することが出来た。帰りに前回も立ち寄った姫川源流の親海(およみ)湿原を訪ねた。姫川は白馬山から新潟の糸魚川海岸に流れ下る清流である。
そこにはミツガシワ(三柏)が群生し、広大な湿原を白一色の花模様に染めていた。ミツガシワは清流の浅い水底の土中に太い地下茎を伸ばし、茎と葉を水面上に高く延
ばして咲く抽水性の多年草である。
花はピンク色のつぼみをつけた白色系で、たくさんの白い毛が伸びているのが特徴的である。葉は5月の節句に使われる柏(かしわ)の葉にそっくりで、それが3枚あることからミツガシワ(三柏)と名付けられている。
湿原の岸辺にはシロバナエンレイソウ、ルイヨウボタン、ヒトリシズカ、トキワイカリソウ、ホウチャクソウといった他ではあまり見られない野草が咲いており目を楽しませてくれた。
湿原を離れてすこし歩くと姫川水流の清らかな流れの中に、お目当ての白くて可憐なバイカモ(梅花藻)が群生していた。
清流の中で流れに沿って浮かぶ長細い葉はまるで藻のようで、川面から顔を出す小さな花は梅の花にそっくりである。バイカモの漢字名・梅花藻
、それはそうした花と葉の姿から付けられたものである。また、あまり知られていないが、バイカモは山菜として食用にもなるようである。
ギフチョウを追いかけて訪ねた4度に渡る白馬への探索旅であったが、残雪に輝く北アルプスとその麓から流れ出した清流湿原ならではの、美しくも可憐な草花の姿を目にすることが出来たのは、なんとも嬉しいことであった。
あれやこれやと心穏やかならぬ昨今、読者におかれてはこれらの写真を見て
、ゆるるりと心を癒やして頂きたいものである。