富士の麓を走る
山梨に住んでいながら、これまで写真撮影のために富士五胡方面には足を向けることが少なかった。写真集『神々の楽園
八ヶ岳』を上梓し終えた先週初め、間近から富士の雄姿を見てみようと、富士山麓を訪ねてみることにした。
幸いにも、河口湖周辺はちょうど桜が満開で、残雪に輝く富士を背景にした桜の景色を堪能することが出来た。八ヶ岳高原から眺める富士
は大変優雅な美しさを漂わせているが、麓まで来て見上げるその姿は実に雄大で迫力がある。
新刊の写真集には、「昔、富士山の女神と八ヶ岳の男神が背の高さを争ってケンカをして、負けた気の強い女神が八ヶ岳の頭を長くて太い棒で叩いたために、八ヶ岳は八つに割れて今の峰ができた」という物語を掲載しておいた。
河口湖から本栖湖、精進湖方面に向かって走っていると、左手になにやら旗がたなびく小高い丘が見えてきた。遠くから眺めるとまるで武田信玄公の
出陣式の「昇り旗」のように見えたので、興味を引かれ立ち寄ってみると、近くで酪農を営まれる方が20年ほど前から毎年この時期になると立てる「鯉のぼり」であった。
さらに南下して静岡県の富士宮方面に向かって走ると、富士五胡とは別に富士山を映す綺麗な湖「田貫湖(たぬきこ)」に至る。
この湖はあまり名前は知られていないが、周囲に自然が残された静かな湖で、毎年今の季節には、朝日が富士山の頂上から昇る「ダイヤモンド富士」の姿が眺められる、写真家
たちには有名な湖である。
今の時期は朝6時前後にその光景が見えるが、快晴と湖に波のないことが条件となるので、撮影には根気がいる。写真集の出版も終えたので、いつかまた
機会があったら撮影してみたいと思っている。帰りに「陣馬の滝」と「白糸の滝」に立ち寄ってみた。
「白糸の滝」は昔から有名だが、「陣馬の滝」は読者は初めて聞く名前かも知れない。鎌倉時代のはじめ建久4年(1193)に、富士山の麓で狩りを催した源頼朝が日が暮れ
たので、滝の近くに一夜の陣を敷いたことから、その名前が付けられたと言われている。
白糸の滝に比べれば遙かに小さな滝だが、ほとりに咲いた椿の花が彩りを添えて、なかなか趣のある滝であった。