蜜を求めて集まる蝶や昆虫
その名前がなんとも情緒的な花「忘れな草」。その花期は平地では3月〜5月であるが、標高900mを超す高地では6月に入ってから咲き始め7月いっぱい咲いている。それゆえ、季語は春であるが、八ヶ岳山麓
一帯では夏の花という印象が強い。
背の高さは20〜50cm
、6〜9ミリほどの薄紫色の小さい5弁の花を咲かせ、中央に黄色・白色の目(小斑点)を持っている。原産地はヨーロッパで、日本では主に花壇や鉢植えなどで園芸観賞用として栽培されているが、日当たりと水はけのよい湿性地
では群生した艶やかな姿を見ることが出来る。
昔、中世ドイツの騎士ルドルフは、ドナウ川の岸辺に咲くこの花を、恋人ベルタのために摘もうと岸を降りたが、誤って川の流れに飲まれてしまう。ルドルフは最後の力を尽くして花を岸に投げ、「Vergiss-mein-nicht!(
僕を)忘れないで)」という言葉を残して死んだ。残されたベルタはルドルフの墓にその花を供え、彼の最期の言葉を花の名にした。
こんなロマンティックな伝説から「忘れな草」の名前を持つこの花は、中島みゆきの「忘れな草をもう一度 」、倍賞千恵子と菅原洋一の「忘れな草をあなたに」、尾崎豊の「Forget-me-not
」などで歌われ多くの日本人の心に、文字通り忘れられない花の歌として刻まれている。
我が家から車で15分ほど行った休耕田の一角に、この「忘れな草」が咲く群生地がある。今の時期、この花の咲くのを待っていたかのように、アサギマダラが花の蜜を求めてやって来る。群生地を訪ねてみると、そこにはアサギマダラだけでなく、ベニシジミやヒメアカタテハなどの蝶
たちや、湿地帯を好むトンボや昆虫の姿もあった。
アサギマダラは高地で休息を取りながら、しだいに高度を下げ南下していく習性を持っており、中には本土と南西諸島や台湾の間を往復するものもあるというから、八ヶ岳山麓で「忘れな草」の蜜をたっぷりと吸った後、彼らも遠く南の地に向かって飛んで
行くのではないだろうか。
今回、その窒フ色と薄紫色の花模様がよくマッチする「アサギマダラ」と「忘れな草」のツゥショットを撮影しようと試みたが、一番苦労したのは、
「忘れな草」の花の色を出すことであった。晴天下ではどうしても白く写ってしまい、鮮やかな紫色が出ない。傘で陰を作ったり、曇り空の時間帯を狙ったりして
どうにか見た目通りの色を出すように務めてみたが、実際の色に比べて薄くなってしまった。
ブログで「忘れな草」の項を調べてみたが、あの艶やかな薄紫色が写った写真が少ないところをみると、どなたも皆、色出しには苦労しているようだ。