前回、世界は現状のままでは世界的経済恐慌に突入することになりそうだというサマーズ教授やマービン・キング氏の警鐘を記したが、それでは、なにゆえ世界経済はこれまでのように一時的な低迷の後に、復活を遂げることが出来ないのかという点について説明しよう。 その要因は大きく挙げて次の3点となる。
@ 経済の発展をもたらすフロンティア(地理的な場所)がなくなってしまったこと。
A 地理的な場所に代わる架空の空間、金融市場が限界に達したこと。
B 政府や中央銀行の政策がまったく効果を発揮しなくなってしまったこと。
@ について、
200年余にわたって世界経済が発展してきた最初の段階では、各国が成長を求めた市場(フロンティア)はそれぞれの自国市場であった。
つまり、大英帝国は英国内が、フランスはフランス国内が自国経済を発展させる唯一のエリアであったわけである。
その後、自国内の経済成長が限界に達したあと、欧州各国は自国の植民地へと足を延ばすところとなった。 英国はインドなど東南アジアへ、フランスは中東やアフリカ諸国などが新たなフロンティアとなっていったというわけである。 自国の高価な製品を植民地に売りつけて利益を上げる一方、植民地の安い製品を大量に買い取り自国内で販売する。
やがて、その植民地による経済成長が満杯状態になった後に目をつけた先が新興国。 自国では手に入らないすぐれた商品に
関心が向き始めた新興国の人々へ輸出を増やす一方、現地に製造会社や投資会社をつくり、多額の利益を得て自国の経済を潤(うるお)わせてきた。 しかし、それにも限界があった。
どこの新興国もみな一定の経済成長を遂げ終えたからである。
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次々と開拓されていったフロンティア(市場) |
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A について
海外に目を向けた地理的なフロンティアが限界に達した後、「金のなる木」を求めた輩たちが地理的な場所に代わるものとして新たに
見い出したのが、「金融市場」という架空の空間であった。 株式投資や為替取引などといった「国境のない空間」を利用し、カネに目がくらんだ輩たちはマネーがマネーを産む錬金術の世界へと進んでいったのである。
その結果、世界の金融資産はGDP(実体経済)の3.5倍、200兆ドル(約2京2000兆円)という膨大な金額に達し
、貧富の格差は次第に巨大化していったのである。 そのぼろ稼ぎの場となった、金融市場が満杯状態になったことを示したのが、2008年に発生したリーマンショックであった。
それは、米国の金融機関が揃って返済能力のない顧客に、次々と巨額の住宅融資を実行した結果発生した、リーマンブラザーズ
をはじめとする巨大金融機関の倒産劇であった。
米国や各国政府が国の予算を使って緊急事態の発生を回避したものの、これを転機に金融資産の増加はストップし、残された唯一のフロンティアであった「金融市場」の活況は止まってしまったのである。
こうした状況下で、これまでと同様に巨額の利益を上げようと画策した結果
、発生したのが大企業における不正や腐敗、犯罪の蔓延であった。 長い年月をかけて、信頼と実績を積み上げてきた世界有数の企業や金融機関において、かつては考えられなかった驚くべき不正事件が相次いで発生し始めたのである。
その代表的な事例が、2011年のヨーロッパ最大の銀行で、150年余にわたる伝統を持つスイスのUSB銀行の不正取引事件であり、2014年の
米国のゼネラルモーターズのリコール隠し、2015年のドイツのフォルクスワーゲンの排気ガス規制の不正、さらには日本の代表的企業であった東芝の不正会計であった。
成長が止まった状況下で
無理矢理利益を上げようとしたら、こうした不正を行うしか方法がなかったのだ。
これはまさに、世界経済の成長が限界に達したことを示す何よりの証拠であった。
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2015年の経済系ニュースでも、最大規模のスキャンダルとなった
フォルクスワーゲンのディーゼルエンジン不正問題。
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B について、
自国経済が満杯状態となったあとに求めた植民地と新興国、そして金融市場という架空の空間がいずれも満杯状態となった今、打つ手は何か?
それは各国政府が実施した公共投資や減税などの財政政策であり、中央銀行が行った低金利政策や大量の国債の買い入れであった。
しかし今回、政府や中央銀行が打ち出した景気刺激策は、まったく効果を上げないまま6年余が経過して来てしまっており、世界各国で深刻な失業状態が続いている。 それは経済を活性化させる地理的、空間的フロンティアが全て満杯状態のため
、もはや拡大する余地が残されていなかったからである。
一方、
度を超したばらまき政策で、多額の資金を使い果たした国家や中央銀行の資金繰りが危うくなって来ているばかりか、史上例を見ないマイナス金利の適用で金融機関が厳しい状態に追いこまれ、ドイツやイタリア、スペイン
などの主要銀行の破綻の噂が後を絶たなくなってきている。
さてこれから先。世界経済はどうなるのか? その先に待ち受けているものは何か? それについては次回に記すことにする。
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