欧州に新たな動揺が広がっている。 イタリアで4日投開票された憲法改正に関する国民投票で、レンツィ首相(41)の提案した憲法改正案が否決され、首相が辞意を表明することとなったからである。 反対を率いてきた人物が、
もともとお笑い芸人だった反ユーロ掲げる「五つ星運動」の代表・べッぺ・グリッロ氏であったことも、世界を驚かせている。
上院の権限を縮小するなど、政府の権限強化を目指す改憲案は、当初、賛成派が勝利するものと思われていた。 ところが、途中でレンツィ首相がもしも改憲案が否決されるようなら、自分は辞任すると発言したことから、今回の投票がレンツィ首相に対する
信任投票と化した結果、様相が一変し反対派が急増。 最終的に59対
41の反対多数で否決されるところとなったのである。
なにゆえ、首相の発言を受けて状況が一変したかというと、レンツィ首相は悪化している財政状況を立て直すため、緊縮財政を積極的に行って来ていた
だけに、このまま憲法改正案が可決されれば、首相の権限が強化されて緊縮策や銀行救済がさらに進められ、生活がおびやかされることになるのでは
、と考える人々が低所得層を中心に急増したからである。
レンツィ首相の辞任により、しばらくは与党の暫定政府が政権を引き継ぐのではないかと思われているようだが、2018年に予定されている総選挙が来年早々に前倒しされ
て、
反ユーロを掲げる「五つ星運動」が政権を握る可能性もありそうだ。
いずれにしろ懸念されるのは、財政緊縮策が否定されたことにより、次なる政権がEU
の求める緊縮策を推し進めることが難しくなるだけに、記録的な財政赤字に陥っているイタリアの国家財政が破綻することにならないか、また金融機関に対する支援が滞り、数千億円の不良債権を抱えた銀行の倒産が連鎖的に発生することにならないかという点が心配である。
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べッぺ・グリッロ氏は政権に就く用意があることを表明。
即時に選挙を実施するべきであると主張。 (ロイター)
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一方、同日行われたオーストリアの大統領選は、ヨーロッパで初めての右翼の大統領誕生かと注目されていたが、戦争に繋がりかねない右翼化が懸念され、右翼・自由党のノルベルト・オファー氏の当選はならなかった。
しかし、開票結果は
51対48とほぼ互角の接戦で、オーストリアにおいても、既成政治に対する批判の大きさがうかがえる選挙結果となった。
これで、イタリアもオーストリアも英国や米国と同様、国が2分され更なる混乱状態に陥ることは必定だ。
EUでは来年、フランスの大統領選挙やドイツやオランダの議会選挙が行われる。 今回のイタリアとオーストリアの投票結果は既成政党に対する失望感や反EU、反難民、反緊縮策の声が想像以上に大きくなっていることを示しているだけに、来年のフランスなどの選挙結果次第では、EU(欧州連合)は英国の離脱以上の深手を負うことになりそうである。
個人においても政党などの組織や集団においても、それぞれその「素」が表面化してきている。そのため、国民が政治や政治家の本当の姿を知るところとなり、口先だけで何も変えられない既存の政治家や政府に対する強い反発が爆発的に表面化して来ているのだ。
こうして、米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利(11月)などで浮き彫りになった、既成政治に対する批判の高まりが、イタリア
とオーストリアの投票結果にもはっきりと表れたのである。 いずれにしろ、これから先
、ヨーロッパだけでなく世界全体の政治情勢が不透明さを増して来ることだけは確かなようである。
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