9月12日未明から実施されてきたシリア内戦の停戦がわずか1週間ほどで崩壊し、アレッポなど反政府勢力の拠点となっている都市へのアサド政府軍とロシア軍による攻勢が一段と激しさを増して来ていることは、「気になる二つの情報」や「悪化する一方の世界情勢」「再び暗いニュース」などで既にお伝えしてきている通りである。 戦闘再開以降のこの2週間だけで、
400人近くが亡くなり2000人余の負傷者が出ており、死者の半分近くが子供である。
そうした中、スイス・ジュネーブの国連ヨーロッパ本部で、休戦の調停役を務めているデミストラ国連特使が記者会見を行い、アルカイダ系の
過激派組織「アル=ヌスラ戦線(2012年1月に設立された反政府武装組織で日本メディアでは「ヌスラ戦線」と表記されている)」に対して
、この地域からの撤退を呼びかける一方、アサド政権とロシア政府に対しては、このまま戦闘を続けるなら、クリスマスまでにアレッポの東部地域は完全な廃墟と化し、両国は歴史によって裁かれることになるだろう、とする
強い警告を発した。
今回のデミストラ特使のヌスラ戦線やシリアとロシア政府に対する警告は、これまで聞いたことのないほど強いものであった。 ヌスラ戦線の戦闘員に対する警告は、
およそ次のようなものであった。
「あなたたちは27万5000人の市民を人質にとり、彼らの運命を握っていることの正当性を、私の目を見て、そしてアレッポに残っている市民に対して胸を張って言えますか」「もしも撤退を決断するならあなたたちの安全は私が保証しましょう」。
一方、激しい空爆によって多くの市民の命を奪っているとされるシリア政府とロシア政府に対しては次のように警告している。
「あなたたちは、1000人にも満たないテロリストの掃討のために、アレッポの街を崩壊させ多くの市民を道連れにするのですか」「このまま戦闘を続けるならルワンダ虐殺と同様の悲惨な事件となりますぞ」
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国連が公開したアレッポの街の人工衛星写真。
見渡す限りあたり一面は瓦礫と化している。
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瓦礫の中から救助された子供、しかし両親は助からなかったようだ。
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今回のデミストラ特使の発言は、シリア紛争の停戦を目指す国連という中立的な立場から見た「公平な判断」であり、ヌスラ戦線もシリア・ロシア両政府も真摯に受け止めるべきである考える方が多いに違いない。読者の中にもそう思われる方が多いのではなかろうか。
しかし、私には得心がいかない点が幾つかある。 その1つはデミストラ特使の発言は、反政府軍や米国に対して何ら言及していない
ことである。
これでは、シリアとロシア政府が「いじめっ子」で反政府軍と米国は「お助けマン」になってしまう。 戦争というものはそんな漫画本に出てくるような単純なものではないはずだ。
そもそも、9月の停戦を崩壊させるきっかけは何だったのか。 「気になる二つの出来事」で記したように、
停戦期間終了間際に、米軍がF16戦闘機2機とA10攻撃機2機で、空港に近いシリア軍の拠点数カ所を空爆し、シリア軍兵士に100人以上の死傷者を出したことではなかったか。 ならば、米軍に対しても厳しい警告があってしかるべきではないか。
政府軍と反政府軍の対立から発生したシリア内戦を複雑化している要因となっているのは、IS(イスラム国)やヌスラ戦線などの過激派組織が参戦していることである。 その両者を誕生させ、その戦力を強化してきたのは米国であり、イスラエルだったのではないか。
全てを把握しているはずの国連の特使がその点に関してもまったく言及していないのおかしなことだ。
IS(イスラム国)の産みの親がイスラエルであり米国である点については、既に読者には伝えて来ているが、それが私の単なる推測でないことは、次期大統領候補のドナルド・トランプ氏の
「IS(イスラム国)はオバマ大統領率いる米国政府が作ったものだ」という発言が裏付けている。
さらに、ロシアのラブロフ外相の次の発言は米国政府がIS(イスラム国)だけでなく、ヌスラ戦線の庇護者であることをも
明らかにしている。 「ロナルド・レーガン政権がアルカイダを創り出したのに続き、ジョージ・ブッシュがIS(イスラム国)を創り出した。
オバマ政権がヌスラ戦線という名のテロ組織を強化し保護した政権として歴史に名を残さないよう願う」。
こうした裏世界の真相は少し世情に詳しい者はみな承知のこと
で、ユダヤ資本に乗っ取られてしまったマスコミが伝えないだけである。
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米国のシリア軍への攻撃に備えて、ロシアの最新式の対空ミサイル・
「S−300VM」が、シリア国内に持ち込まれているようだ。
このロケット砲が飛び立つ先は、米国軍機になる可能性が大きいだけに心配だ。
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こうして見てみると、どうやら今回のデミストラ特使の強硬な発言の裏には、何か重要な点が隠されているようである。
実はそれを裏付けるような情報をワシントンポスト紙が伝えているのだ。
同紙の報道によれば、先週ホワイトハウスでは国務省、CIA、米国統合参謀本部の代表者らを交えた会合が行なわれ、シリア政権側の陣地に空爆を行なう問題が話し合われたようである。
この問題の討議はおそらくオバマ大統領が率いる米国安全保障会議で論議されことになるものと思われるが、その会合は今週末にも開かれる
ことになりそうなので、その成り行きには注目しておきたいところである。
どうやら米国は、シリア停戦に関するロシアとの2国間協力を停止することを発表した直後から、秘密裏にシリア紛争への軍事介入の可能性を検討し
始めているようである。 オバマ大統領がそこまで踏み込むかどうか判断しにくいところであるが、少なくとも、軍内部やCIAの関係者の間では次なる展開に向けて踏み出す意見が出て来ていることは確かなようである。
一方、米国のそうした動きを察知しているロシア政府も既に動き始めているようだ。 ロシア国防省はシリアに対して長距離地対空ミサイルS−300用のバッテリーを供給したことを明らかにしており、「フォックス・ニュース」
も米国政権内の消息筋からの情報として、ロシアがシリアに最新の対空ミサイルS−300VMを配備したことを伝えている。
こうした一連の報道を見ていると、シリア内戦は停戦に向かうどころか、ロシアと米国の代理戦争の形で一段と厳しい状況に向かって進もうとしているようである。 今回のデミストラ特使の強硬発言は、後から振り返って見たら、
米軍のシリア軍への攻撃を正当化するための背景作りであったことに気づくことになるかもしれない。
いずれにしろ泣きを見るのは中東諸国で暮らす一般市民、そして増え続ける難民はEU諸国に国を二分する論争を巻き起こすことになる。 どうやら、世界はまた一歩、苦しみと悲しみの世界に向かって踏み出そうとしているようである。
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