「イラン核合意」からの離脱で世界にショックが広がる中、21日、ポンペイオ国務長官が行ったイランに対する制裁発言は、イラン問題に
「火に油を注ぐ」こととなった。 米国がイランに求める要求の主だったものは次のようなものであった。
@ ウラン濃縮の停止を含めた無期限の核開発制限。
A 弾道ミサイルを拡散させない。
B シリアからイランが指揮する部隊を撤退する。
C イエメンやアフガニスタンの内戦に関与しない。
イランの核兵器開発を防ぐため
に12年の歳月をかけてようやく合意に達した「イラン核合意」をいとも簡単に破棄し、その上、核合意では求めていなかった新たな要求を突き付けて、それを受け入れないなら史上最強の制裁を科すというのだから、驚きである。 これに対してイランのローハニ大統領は
「米国が全ての国の政策を決めることを、世界は容認しないだろう」と反論。 両国の関係悪化が一気に強まる事態となった。
トランプ政権はなにゆえそのような行動に出たのか? 最大の要因は11月の中間選挙で勝利をおさめるためだ。 そのために欠かせないのが、選挙に大きな影響を及ぼすユダヤ系組織と親イスラエルのキリスト教・福音派からの支持である。
こうしてイスラエル擁護政策が一段と進められることとなったのだ。
イスラエルは70年前の建国以来、絶えずおびえ続けていることがある。 それは中東からの攻撃である。 強大な軍事力を背景に4回にわたる中東戦争
ではことごとく勝利を収めてきたものの、中東諸国に対する恐怖心は今もなお消えてはいないのだ。 なぜなら、理不尽なやり方で中東の一角・パレスチナの地を奪い取り、そこに住む多くのパレスチナ人を難民へと追いやったことに対
して、イスラム教徒が今もなお強い反発心を持ち続けていることを知っているからである。
そうした状態にあるイスラエルが今一番恐れている国家が、イスラム教・シーア派の盟主イランである。 そのイランが核とミサイルを保有することはイスラエルにとって最大の脅威であるのだ。 その脅威を消すために
ユダヤ教徒を肉親に持つトランプ大統領の登場は、またとないチャンスであった。
トランプ大統領は穏健派の閣僚や補佐官を次々と追い出して、対イラン強硬派のポンペイオ国務長官やボルトン補佐官を起用。 そして今回、イランつぶしのため
に史上最強とされる制裁措置をちらつかせるところとなったのだ。
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米国の決定を強く非難するイランのロウハニ大統領
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ハルマゲドンにまた一歩近づく
「史上最大の制裁」の一つはイランの最も大きな収入源となっている原油の輸出を止めることである。 原油の輸出先は欧州が40%、中国が24%、インドが18%。 これらの国々がイランから輸入する際にはイラン中央銀行との決済が必要となるが、決済に携わった外国銀行は制裁で米国の金融システムから締め出されることになるのだ。
そのためどこの国の銀行も決済に関わることを避けようとするのは必至だ。 そのため、欧州や中国、インド等の国は輸入をイランからサウジアラビアなどにシフトすることに
なる。 そうなったら国家予算の約30%を原油に依存しているイランは大打撃だ。
制裁の影響を受けるのは原油だけではない。 イランの特産品として名高いペルシャジュータンをはじめとするカーペット類も一緒だ。 ジュータン商人は米国と欧州の顧客を失ったらおしまいだと叫ぶ。
こうして警告通りの制裁が実行されることになったら、 下落しているイラン通貨はさらに下落し、イラン経済は核合意
以前より厳しい状況に陥ることになる。
今もなお若者の失業率が30%に達しているというのに、こうしてさらに経済の低迷に陥ったら
市民生活はさらに困窮し、対外融和路線を進めてきたロウハニ政権は破綻に追い込まれることは必至だ。 その後に待ち受けているのは強硬派政権の誕生である。
そして、もしも核とミサイルの開発に踏み出すことになったら、待ち受けているのはイスラエルからの核施設への大規模な空爆である。
ネタニヤフ首相はそれを行いたくてむずむずしているのだ。 かってイラクに行った空爆の再現である。
そうなったら、イランとの友好国であるロシアとトルコは黙ってはいないはずだ。
プーチン大統領率いるロシアも、この数年の欧米からの経済制裁で厳しい経済状態に陥っているからである。 その先に
見えて来るのは、イスラエルの地にロシア兵が立つと記された世界最終戦争「ハルマゲドン」である。
日本をはじめ世界のマスコミは今、最大関心事を6月の米朝首脳会談に向けているが、それ以上の重大事は米国のイランに対する強硬な経済制裁の行方である
。 そのことを、読者は忘れないでおいて頂きたい。