トランプ大統領がシリアから米軍の残留部隊を撤退させたのは先週末。それと時を同じくして始まったのがトルコ軍によるシリア北部への軍事攻撃である。
エルドアン大統領率いるトルコ政府はシリア北部に暮らすクルド人がトルコの反政府勢力と手を組んでいるとして、トルコと国境沿いのシリア北部一帯でのクルド人勢力掃討作戦を開始するところとなったのだ。
急遽、シリア北部の街から6万数千人の市民が避難する中、9日から始まった空爆と陸軍部隊による侵攻で、既に民間人30が死亡。一方、抵抗するクルド人部隊からの反撃でトルコ内でも6人の死者が発生しており、中東にはまた新たな人道的危機が発生する事態となっている。
フランスやイギリスなど欧州各国からは、トルコ政府への非難と早急に戦闘の中止を求める声が上がっているが、エルドアン大統領はトルコの作戦を侵略と呼ぶなら、我々はヨーロッパとの国境を開いて360万人のシリア難民を送り込むぞと脅している。
2015年に100万人のシリア難民がトルコからEU諸国にわたり、各国でポピュリズムや極右勢力が台頭して混乱を招いただけに、EU各国からは強い非難をトルコに向けられない裏事情があるのだ。そのため、トルコのクルド人部隊への攻撃はこれから先も続けられる可能性が高いだけに、民間人の死傷者はさらに増えることになりそうである。
こうした人道的危機と同時に心配されているのは、クルド人勢力によって捕虜になっている1万4000人のIS(イスラム国)戦闘員の逃避とIS部隊の復活である。収容所にいる捕虜のうち2000人ほどはシリアやイラク以外の国の戦闘員で、そのうちの多くがフランスなどヨーロッパ諸国から来た若者であるため、それらの国々では彼らの帰国を恐れる事態ともなっているのである。
ブッシュ親子によって始まった中東危機。その後の湾岸戦争やイラク・アフガン戦争、そしてIS(イスラム国)の出現を契機に泥沼化したシリア内戦等によって
、中東諸国では数百万人の死傷者や難民が発生している。これらは今、米国
に巨大なカルマとなって襲いかかろうとしていることは、既にお伝えして来ている通りである。
そんな中、
20数年を経て、ようやく落ち着きを取り戻そうとしていた中東では、今回のトルコによるクルド人への攻撃によって、また新たな一般市民を巻き込んだ悲惨な人道的危機が始まろうとしているのだ。人類にとって、終末的な状況がまた一歩近づいて来ているように感じられてならない昨今である。