トランプ新大統領の言動の内で私にとって特に気になるのは、イスラエルに関する公約とその後の言動である。
彼は選挙戦で「アメリカとイスラエルは不滅の友情で結ばれている」、「大統領に就任したら、在イスラエル大使館をエルサレムに移す
」と語っている。
読者は大使館の場所をどこに移そうが、たいした問題ではないではないかと思われるかもしれないが、事はそんな甘いものではないのだ。
イスラエルはエルサレムを自国の首都と主張しているが、パレスチナ自治政府や国際世論はそれを認めておらず、その帰属をめぐる争いのため、中東和平はいまだ実現できずにいるのだ。
だからこそ、どこの国も皆、エルサレムを避けてテルアビブに大使館を置いているのである。
歴史を振り返ってみると、元々第2次世界大戦終了時まで、現在のイスラエルとパレスチナ暫定自治区一帯は
2000年近くにわたってパレスチナ人と一部のスファラジーユダヤ人(古来からの本当のユダヤ人)の住む土地であった。
しかし大戦後、ヨーロッパから逃れてきたアシュケナジーユダヤ人(偽ユダヤ人)がユダヤロビーの金と政治力を使ってその土地の一部を
奪ってイスラエル領と
し、さらにその後の第1次〜第4次中東戦争の圧倒的勝利によって、その大半をイスラエル
領としてしまったのである。 さらに残されたパレスチナの地(東パレスチナ)に移入してくるユダヤ人のために入植活動を続け、パレスチナを虫食い状態にしているのである。
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エルサレムはパレスチナ自治政府の一角にある都市で、ユダヤ教、
キリスト教、イスラム教の聖地として古くからの巡礼地でもある。
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そうした経緯の中で、イスラエルはエルサレムを勝手に首都として利用しているわけだが、パレスチナ自治政府もまた、将来、和平によって国家として国際社会から認められた時には、そこを首都にするつもりでいるのだ。 このエルサレムという土地
、中でも有名なモスクの建つ東エルサレムの歴史はアブラハムの時代までさかのぼるほど古く、その領有権問題は簡単に決めることの出来ないほど複雑で微妙な面を持っている。
それだけに、国連や国際社会は両国同士の話し合いによって決めてもらうしかないと、これまでに何度も和平協議を開催してきたのであるが、未だ妥結には至っておらず、2014年の4月にに交渉が決裂して以来、2年9ヶ月にわたって協議は中断したままなのである。
そうした中、トランプ次期大統領は選挙中に自分が大統領に選出されたら、大使館をエルサレムに移すと宣言したわけであるが、それは即、米国はエルサレムがイスラエルの領地であることを認めることになってしまうだけに、
許される発言ではないのだ。 それだけに、もしもトランプ新政権が大使館の移転を決めたら、和平協議は完全に崩壊してしまうことになってしまう。
さらに心配なのは、新しい駐イスラエル大使に指名されたフリードマン氏は、イスラエルの入植活動に資金を提供しており、2国家共存に疑義を主張している
、新ユダヤの代表的な人物であることだ。 これではイスラエルの極右勢力の考え方と一緒ではないか。 また、上級大統領顧問となった娘婿のクシュ
ナー氏が、敬虔なユダヤ教徒である点も、気になるところである。
パリで「中東和平推進会議」開催
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フランスのパリで、15日、米国のケリー国務長官など70ヶ国の
外相級や国際機関の代表が参加した中東和平支援会議が開かれた。
(カタールアルジャジーラ)
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トランプ氏の発言に驚いた国際社会は、トランプ氏に警告を発するためにフランス政府が中心になって、14日にパリで急遽、中東和平を支持する「中東和平推進会議」
を開催することになったのである。 しかし、イスラエルはこれを無意味な会議であるとして参加を拒否したため、パレスチナも参加することができず当事者不在の会議となってしまった。
その和平推進会議では、先の国連の安全保障理事会でのイスラエルの入植活動を強く非難する決議に賛同し、トランプ次期大統領の大使館のエルサレムへの移転発言を念頭に、エルサレムの帰属や国境などを決めつける一方的な行動
は取るべきではないとする、共同声明を発表。
その声明を受けて、イスラエルのネタニヤフ首相は早速、「今回の会議は、フランスとパレスチナがイスラエルに無理な条件を飲ませようとして開いた、無意味な会議であった」「今回の会議は過ぎ去った時代の遺物であり、昨日までの世界は息を引き取ろうとしており、今までの世界とは違う明日がやって来るのは近い」と大変意味深な発言をしている。
ネタニヤフは世界の声に耳を傾ける気持ちはまったく持っていないというわけだ。 これに対して、パレスチナ暫定自治政府のアッパス議長は
「もし米国が大使館を移転した場合には、アラブ諸国と対抗策を話し合い、1993年の暫定自治合意(通称オスロ合意)に基づくイスラエル国家の承認そのものの取り消しも、選択肢の一つとなるだろう」と
強く反発している。
オスロ合意というのは簡単にまとめると、@ イスラエルを国家として、またPLO(パレスチナの武装組織)をパレスチナの自治政府として相互に承認する。 A イスラエルは占領した地域から暫定的に撤退し5年にわたって自治政府による自治を認める。 その5年間に今後の詳細を協議する、というものであった。 もしも、アッパス議長の発言が現実となってしまったら、歴史は24年前の和平会議の振り出しに戻ってしまい、パレスチナを巡る中東和平は一からやり直しとなってしまう
ことになる。
エルサレムへの移転は世界最終戦争の導火線
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大使館のエルサレムへの移転は、イスラエルとパレスチナの対立を
一段と深めることになる可能性が大きいだけに、トランプ氏の責任は大きい。
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一体、トランプという人物はパレスチナを巡る中東問題の複雑さをどこまで分かっているのだろうか? ユダヤロビーと繋がって経済を活性化させ、雇用創出を図ればそれで良いというものではないはずだ。
それではあの馬鹿ブッシュと同様、再び中東に火の粉をまくことになり、それこそ世界最終戦争
・ハルマゲドンを誘発させることになってしまうではないか。
実は、本日早朝、この記事を書いている最中に奇妙なことが起きたのだ。 私は日々の新聞記事の中から重要な記事を切り取ってファイルに保管している。 切り取る記事の数が年々多くなって来ているため、2000年以降だけでも既に20冊を超えている。 そのファイルが保管されている本棚に、ふと手が触れた瞬間、一冊のファイルが棚から落ちたのだ。
落ちたファイルの開いたページに目をやったところ、目にとまったのは偶然にも2008年12月28日付の朝日新聞の切り抜きで、そこには、「報復連鎖の恐れ」と題する
8年前のガザ地区の空爆の様子が悲惨な写真と共に記されていた。(下段写真参照)
それは、イスラエル軍がパレスチナ自治区のガザに対して行った過去最大規模の空爆の記事で、女性や子供を含む多数の死者が発生したことが記され
たおり、同じファイルに保管されていたその後3週間後の記事には、死者の数が1100人を超えたことが記されていた。 この記事が私の目にとまったのは決して偶然ではない! その時、私はそう感じて鳥肌が立った。
もしも、これから先。トランプ新政権が軽はずみにエルサレムへの大使館移転を決めるようなことになったら、再び同様な悲劇が起きる可能性は大である
。 それは、世界最終戦争 ・ハルマゲドンを誘発させるものとなるに違いない。 天はそのことを私に知らそうとされたのではなかろうか。 私にはそう思えてならなかった。 まさに戦慄を覚えた一瞬であった。
イスラエルとパレスチナの戦闘能力は「月とすっぽん」。
一方はステルス戦闘機から水爆まで保有しているのに、片方は鉄砲と精度の低いロケット弾しかないのだ。
しかし次なる戦闘は、イランなど中東全域を巻き込んだ「イスラエル対アラブ諸国」の戦争となり、第1次〜第4次中東戦争を上回る悲惨なものとなる可能性が大きいだけに、トランプ新政権の政策をしっかりと見守っていきたいものである。
以上、3回シリーズでトランプ次期大統領の就任式を前に、彼が選挙期間中に述べた幾つかの選挙公約について、私なりの見方を記し
たが、少しでも参考にして頂けたら幸いである。
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8年前のガザ空爆の悲惨な状況を伝える朝日新聞。(クリックで拡大)
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