1月8日、イスラエルのエルサレムで車によるテロ事件が発生。 現場はエルサレム旧市街を見下ろせる観光客に人気の遊歩道。
そこを警備するためバスから降りたイスラエル軍の着任早々の兵士の集団に向けて、トラックが突っ込んだ後、再びバックして
はねて男女4人が死亡、15人が負傷。 運転していた男は東エルサレム出身のパレスチナ人でその場で射殺された。
現場に駆けつけたネタニヤフ首相は 「男はIS(イスラム国)の支持者だったことを、あらゆる証拠が示している」 と発言。 日本のマスコミは、昨年起きたフランスのニースやドイツのベルリンでの車を使った
テロ事件のイスラエル版として報道してはいるものの、
取り扱い方が他のテロ行為に比べて極めて弱く、その後の情報が伝えられていない。
しかし、私には今回の事件には、軽視出来ない点がいくつか隠されているように思えるので、取り上げることにした。 重要な点は、ネタニヤフ首相が事件発生直後であったにもか関わらず、犯行はIS(イスラム国)と関わりがあるテロと断定している点である。 捜査に関わっていた軍の関係者が、今回の事件がISと直接関係している証拠はまだ入手できていないと語っているのにも関わらずである。
どうやら、ネタニヤフ首相は今回の事件発生をイスラエルにとって都合のよい方向に利用しようとしているようである。 つまり、パレスチナ人とISを結びつける材料にしようというわけである。
最近、イスラエルによる入植活動に反発するパレスチナ人の襲撃事件が急増していることは、読者は既にご存じのはずだ。 こうした襲撃事件を防ぐためイスラエルでは最近、ISとの関連が疑われる人物に対しては裁判なしで身柄を拘束し、その家族が住む自宅を破壊するとい
う恐ろしい懲罰的な対策が実行に移されている。
まさに信じられない非人道的な行為であるが、こうした行為に対して国連からも人権侵害だと強い反発が発せられている。 また、先日、入植活動そのものが許される行為ではないと、安全保障理事会で非難決議が採択されたことは、「国連でイスラエルに対する非難決議採択」でお伝えした通りである。
こうした入植活動に対するパレスチナ人の反発行為や国連の非難決議は、既に60万人のユダヤ人を入植させているイスラエル政府にとっては大きな痛手である。 そのため、ISに影響を受けたとされる若者による残虐な事件を数多く発生させ、パレスチナ人に対する厳しい対応は、自国民を守るためには必要な手段であることを世界に訴えておこうとした
可能性が大きい。
でなければ、事件発生直後に現場に駆けつけた首相の口から、IS(イスラム国)との明確な関わりを伝える発言はなかったはずだ。
もう一つ考えられることは、今回の事件発生は、イスラエル政府が密かにIS(イスラム国)の戦闘員を使って意図的に引き起こした可能性である。 なにゆえそのようなことする必要があったのか? 一つの理由は、英国のEUからの離脱劇や、ロシアと手を組みIS(イスラム国)を撲滅しようとしているトランプ大統領の登場
で、ISを登場させるのに手を貸してくれた英国と米国のユダヤロビーが窮地に立たされようとしているからである。
既に「
イスラム国とバグダディーの実体」でお伝えしたように、IS(イスラム国)はイスラエル政府が周辺のアラブ諸国、中でもシリアのアサド政府を壊滅するために誕生させた組織である可能性は大である。 そうしたIS(イスラム国)誕生の経緯が世に明らかにされ
たなら、イスラエル政府は窮地に立たされることは必至。 それを恐れたネタニヤフ首相は、イスラエルは被害国の一つで他国同様、ISの犠牲者であってその創出には関係ないことを世界に示しておこうとした可能性も大である。
そのためには、自国の兵士の多少の犠牲は目をつむる。 ネタニヤフ首相はそのくらいのことは平気でする男なのだ。 シリアやイラクなどでIS(イスラム国)によって殺害された民間人の犠牲者が何万人に達していることや、遠く離れたフランスやドイツなどにまでその犠牲者が及んでいることを考えれば、お分かりのはずだ。
しかし、結果的には今回の事件はIS(イスラム国)とは関係のないパレスチナの若者にユダヤ人を襲撃する格好の手段を教えてしまったことになりそうである。 爆弾や拳銃を使わずとも一台のトラックさえ用意すれば、憎きユダヤ人に仕返しをすることが出来ることを気づかせてしまったからである。
もしそうだとすると、一連のテロ活動に世界で最高度の警備体制を整えているイスラエルでも、トラックを使った殺傷事件は止めることは難しいだけに、これから先
、パレスチナ人の若者によるトラックテロが発生する可能性はありそうである。 なんとも皮肉なことであるが、ISを産んだイスラエルがそのISの手法により襲われることになるのかもしれないのだ。 「因果は巡る」 とはまさにこのことを言うのではなかろうか。