今年の2月15日、八ヶ岳山麓一帯が1メートル50センチを越す記録的な大雪に見舞われたことは「記憶にない大雪」に記した通りである。3日間、積もった雪で道路は閉ざされ、買い物にも出られず、中には暖をとる灯油が手に入らず、食べ物にも事欠く
家も出る有様であった。
しかし、困惑したのは人間だけではなかった。さらに厳しい状況に置かれていたのは、八ヶ岳山麓一帯に生息する動物たちであった。鹿やイノシシたち野生動物は背丈の2〜3倍もある積雪の中で動きが取れず、飢餓のため亡くなったものも多かったようである。
狐や狸も同じ苦境の中にあった。近くの林の中に棲んでいた2匹の狸が積雪量が少なくなったある日、我が家の中庭へとたどり着いた。そして、ねぐらとしたのが徳乃蔵の床下であった。雪に付けた足跡で、なにやら動物が近くに来ていることには気づいていたものの、まさか徳乃蔵を住処としていたとは思わなかった。
それに気づいたのは初夏を迎えた頃、徳乃蔵への来館者が皆帰られたあとの夕方、なにやらカフェルームの横で鳴き声が聞こえるので覗いてみると、小さな動物たちが遊んでいるではないか。猫の子供だろうかと思ったがよく見ると、なんと、それは狸の子供たちで、その数は6匹であった。
その後、カエルなどの小動物を口にくわえて床下に入っていく親狐の姿を何度も見かけた。子供たちは日に日に大きくなって、餌を探すようになった。メス親が成長した子供たちを連れて囃子林に去って行ったのは、それから1ヶ月ほどした頃だった。徳乃蔵はどうやら子狸たちの誕生
と成長を助けるという徳を積むことが出来たようだ。