広がる不安 (1)
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メキシコ湾に広がり始めた油の帯
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メキシコ湾での原油漏れが始まってからはや2ヶ月が経過、大量の原油が今もなお流出し続けている。イギリスの原油メジャーBPは流出拠点の近くに、新たに2本の油井(ゆい)を掘り埋蔵されている原油をそちらから抜き取ろうとしているようであるが、思うようにいくかどうか不透明で、8月にならないとその成果は分からないようである。
ただ、専門家の意見を聞くと、流出の量を減らすことは出来ても、完全にストップすることは難しいようである。それどころか、新たな油井の掘削工事で今回の事故に似たような流出事故が起きないかが懸念されている。というのは、今回事故を起こした油田そのものに問題があり、
今回の事故の数日前に、BPの技術者から「悪夢の油井だ」という警告が出されていたことが、明らかになっているからである。
今回の事故を調べている内に疑問に思ったことが2点あった。その一つは、事故の原因である。問題の油井では掘削工事が最終段階を迎えていた4月20日に、海上の掘削基地で爆発が起き、油井と基地を結ぶパイプが破損し、原油流出が始まった
といわれているが、そのパイプの破損がなぜ起きたのかが、今一つはっきりしないのだ。
6月17日の米下院エネルギー商業委員会の公聴会における他の石油メジャーの代表者の発言を聞いていると、BP社はコスト削減と工期短縮の
ために、危険度の高い簡略設計を採用した結果、爆発性のメタンガスが油井を通って上昇し、それに点火して爆発事故が起きたようである。
しかし、BPの技術者が「悪夢の油井だ」と発言していた点を考えると、簡略設計の採用だけでなく、油田そのものがこれまでのそれと比べて、危険度が高い油田であったのではないかという可能性が浮かび上がってくる。
アメリカのユーチューブなどで流れているニュースを見ると、今回の油田掘削は、掘削深度が非常に深い超深度油井であったために、メタンガスの圧力が極端に高くなり、コントロール不能になったようである
からである。
平均的な油井の圧力1500psiに比べて、事故を起こしたBP社の油井の圧力は20000〜70000psiというから、通常の油井にかかる圧力の15倍から45倍の圧力がかかっていたことになる。これは驚くべき数値で、掘削深度がいかに深いかを物語っている。こうした超深度油井の開発はかつて旧ソ連邦で行われていたが、危険度が大きいため今は全面的に中止されている。
事実、現場では、さまざまな色の泥が勢いよく吹き上げられていると報告されており、これは、採掘が原油の無機的な生成が行われている地殻内部の高温・高圧の層にまで達してしまった可能性が大きいことを示している。となると、新たに掘削している油井にも同じような危険性
がありうることになる。
さらには、超深度油層の下面は上部マントル層を覆っている地殻に接していることから、近くにあるメタンガスが埋蔵された地層を破壊する危険性もある。もしも、そのようなことが起きれば、原油の流出どころか、
ガスによる巨大な津波の発生を引き起こす可能性もあり、容易ならざる事態になってくる。
BP社が世間の風当たりの凄さに、焦って無理な流出止め工事を進めると、そういった取り返しのつかない結果を産むことになるので、BP叩き
も善かれ悪しかれである。
第2の疑問点については次回で述べることにする。