16日、トルコで大統領の権限を大幅に強化する憲法改正案の是非を問う国民投票が行われ、賛成派が過半数を制した。 これで首相は廃止、行政の権限は大統領に一元化され、副大統領や閣僚、上級公務員の任命権も全て大統領に一任されることになる。 また裁判官の任命においてもほぼ同じような規定が適用されることになるようだ。
今回の投票結果を受けて、強い大統領制の実現で政治を安定化することが出来ると喜ぶ国民もいる一方、独裁を招き、三権分立がないがしろにされると反対する国民もいる。 問題は賛否の投票結果が、賛成51・4%に対して反対48。6%とわずか2%強の僅差であったという点である。 テレビでは正規な投票用紙とは違う用紙で賛成票に数えられたものもあったようなので、正に世論は真っ二つに2分されたと考えてよさそうである。
「二分」という二文字で思い出すのは、EU離脱を決めた英国の国民投票と米国の大統領選挙の結果である。 いずれも、国論は大きく二つに分かれて、EUからの離脱とトランプ大統領の当選が決まり、その後も世論は今に至るも二分されたままである。 これで、英国、米国に次いでトルコもまた世論が大きく二つに分かれるところとなり、これから先、全ての面で激しい論争を巻き起こすことになりそうである。
世論の二分化については私がかねてから言ってきたように、これからは、国論だけでなく民族間や宗教間、組織内や友人間などあらゆる面で意見が二つに分かれ、激しい論争を引き起こすことになる。 それは「心の素」が表面化するためで、その結果、この世から「協調」や「融和」といった言葉が消え、争いの「頻度」がさらに増し、その「規模」が一段と大きくなることになる。 なんともはや恐ろしいことであるが、実際そうなって来ているのだから認めざるを得ない。
懸念されるEU諸国との亀裂
トルコはこれから先、世界の政治の動向を占う上で重要な地位を占めるという点についても、既にお伝えしてきた通りである。 トルコはアジアと中東諸国、それに大国ロシアと地理的につながっているだけでなく、交流面でも長い歴史を持っており、経済や安全保障面を鍵を握る重要な地位にある。 それだけに、一段と独善的になることが予想されるエルドアン大統領の一挙手一投足が、いかなる結果を招くか注目されるところである。
また、EUとの関係の亀裂も心配だ。 EU諸国の多くが人権問題を重視する国々であるだけに、これから先、強権政治によって人権をないがしろにする面が出てくれば出るほど、EU諸国からは強い反発を招くことになるのは必至で、その結果、EUへの加盟は遠のき、経済面での交流も閉ざされることになるかもしれない。
その先に待ち受けているのが難民問題である。 現在はEUとの協定でトルコ経由の難民の流入は止められているが、EU諸国の動き次第では、こうした難民協定が反故にされる可能性も大きいだけに、気がかりである。 もしもそうなった時には、EU諸国内で反イスラムの動きが高まり世論が二分されてテロやデモなどが頻発することになり、場合によってはEUの分裂や崩壊をも導くことになるかもしれない。
また、世界が注視しているシリア内戦の行方についても、トルコは現在、ロシアとイランと共に休戦に向けての主導的立場にいるだけに、EUとの亀裂は一歩間違うと、両国と手を組んで反欧米的な行動に出る可能性もあり心配だ。 今回の投票結果は後から眺めたとき、米国のシリアへのミサイル攻撃と同様、世界大戦・ハルマゲドンの口火の一つとなっていたことに気づくことになるかもしれない。