「ホームラン」か「シングルヒット」?
それとも「空振りの三振」か?
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9日間の外遊を終え、大統領専用機のタラップを降りるトランプ大統領夫妻
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初の外遊となった9日間にわたる5カ国訪問を終えて、トランプ大統領が
27日帰国。 今回の外遊で見えたのは、米国第一主義を掲げた実利外交の姿であった。 そこには覇権国家として他国を牽引していくための「民主主義」や「自由貿易」、「人権」といった、世界が望む理念や規範は消え失せ、米国にとっての実利のみを追求する「物質至上主義」的な面のみが現れていた。
大統領は今回の外遊を野球に見立てて、「訪問した5カ国で打ったヒットはすべてホームランであった」と自慢げに語っている。 確かに、サウジアラビアでの、史上最大規模の武器売却取引の締結や、ベルギーのブリュッセルで開かれたNATO(北大西洋条約機構)の首脳会議における、各国に対する軍事費の分担額増額の妥結はホームランであったかもしれない。
しかし、それは自国の経済面や国家財政において実利があったという見地から見たホームランであって、同盟国との信頼関係が揺らぎ、覇権国家としての権威や他国からの尊敬の念が薄ら
いで、国家衰退の兆候を印象付けるところとなったという点から見ると、シングルヒット程度だったのではなかろうか。 私にはその可能性の方が高いのではないかと思われる。
世界が注目したイスラエルとパレスチナ訪問も、エルサレムでは、かって一度も現職の大統領が訪れたことのないユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を訪れるなど、イスラエルでは多くの時間を費やす一方、パレスチナ訪問はきわめて短時間で終わり、思い入れの違いをはっきりさせていた。 これでは両国の和平協議の仲介役は務まりそうにない。 現に和平への意欲は語ったものの、具体的な計画はいっさい示さず、抽象的な訪問で終わってしまった。
また、NATOとG7の首脳会議においてもホームランとはほど遠い成果であった。 欧州諸国と米国との信頼関係に大きな溝を作り、同盟国の信頼を失うことにな
った点を考えると、シングルヒットというより、空振りの三振だったことになるかもしれない。 それを強く感じさせたのが、首脳会議後のドイツのメルケル首相の
トランプ大統領に対する厳しい批判であった。
首相はいらだちを隠せず、「私たちが他国を100%信頼して任せる時代は終わりました」
「ヨーロッパは運命を他国に頼ることなく、自らの手にゆだねなくてはなりません」と批判発言をしている。 この発言は、これから先、EUやNATO各国
がこれまでのように、同盟国・米国に全幅の信頼を置いて頼りにしていくことが出来なくなったことを意味している。
信頼関係が薄れ、EUとの溝深まる
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トランプ大統領を強く批判するドイツのメルケル首相 |
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こうした考えはメルケル首相だけでなく、参加した全ての国々の首脳の脳裏にも刻まれたのではなかろうか。 地球温暖化対策でヨーロッパ首脳とは真っ向から意見が対立し、米国を省く6カ国だけで迅速に実施して行くことになった
のは極めて異例な事態であった。 今回は辛うじて結束を保ったものの、これから先のG7首脳会議の行方に大きな影を落とすことになったことは明らかである。 今こそ同盟国間の結束が必要な時だけに心配だ。
私が今回のトランプ大統領の一連の行動の中で特に不信感と違和感を感じたのは、中東やヨーロッパ諸国にとって一番の懸案事項である難民問題について、その解決策や資金援助などの点についてまったく言及されることがなかった点である。 テロ撲滅については意見が交わされたようだが、IS(イスラム国)やアルカイダなどの過激派集団の一掃は一筋縄にはいかないだけに、難民問題は放置されたままということになる。
また、トランプ大統領がいかに自己顕示欲の強い男であるかを垣間見たのは、大きなショックであった。 それは、NATO会議で各国の首脳の集まった時、遅れて後ろからやって来た彼が、乱暴に
一人の首脳を手で押しのけ、
我こそがカメラの前に立つ価値のある世界一の人物であるのだ、とばかりに傲慢(ごうまん)に振る舞った場面であった(下の2枚の写真参照)。
長い間、各国首脳の姿を映像で見て来たが、このような人の道を外れた無礼な振る舞いの姿は見たことがなかっただけに、大きなショックであった。
どう見ても覇権国家のトップとしての振る舞いではない。 選挙期間中から今に至るまで大ボラを吹いたり、世界を驚かす突飛な発言を繰り返してきているトランプ氏であるが、どうやら一国のトップに収まるだけの器量と常識は持ち合わせていないようである。
こんな人物が世界の覇権国家のトップとして国際社会に登場したことは、世界がますます混乱していくことを天が見せてくれているようである。 トランプ氏や金正恩(キム・ジョンウン)氏のような男が政治を動かしていくようでは、悪化の一途をたどる世界情勢が、これから先、
さらに厳しさを増していくことになるのは間違いなさそうだ。
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後ろから首脳の一人を押しのけて前に出る |
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前に出たトランプはいかにも偉そうに振る舞う |
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