今や朝鮮半島は「アジアの火薬庫」と化しつつある。 その元凶となっているのは、外に核とミサイルの開発を喧伝する一方、内では人民を手にかけ
続けている金正恩(キム・ジョンウン)である。 5月14日付の
「デイリー新潮」には、元北朝鮮一等書記官・高英煥(コヨンファン)氏が明かした金正恩氏のクレイジーな話が掲載されていた。
世界を翻弄する33歳の「首領様」とは一体、何者か? いかなる心を持った男か? 北朝鮮を知り尽くす元一等書記官が、明らかにした彼のクレージー
な振る舞いを読むと、身の毛がよだつ。 そこには、「金正恩お坊ちゃま」の狂気を示して余りある「ある粛清」に関する内容が記されていた
からである。
粛清された人物は玄永哲(ヒョンヨンチョル)・人民武力部長。 日本で言えば防衛大臣で、軍では大将の
位置にある人物である。
粛清は一昨年(2015年)の4月30日。 最高幹部ゆえに粛清自体は当時大きく報じられたが、その詳細な真相
が初めて明かされるところとなったのだ。
以下は「デイリー新潮」からの抜粋である。
(読みやすくするため、一部修正・加筆)
玄氏は
(2015年)4月の初旬、ロシアで軍の指導部と会談、防空ミサイルの最新データを提供してほし
いと頼みました。 すると「あなた方の指導者は、わが軍は世界で最強と公言している。 なぜ支援しないといけないのか」と言われ
ました。
これを金正恩に報告したところ、大変批判されてしまったのです。
家に帰った彼は奥さんに「若い指導者を頂いて指導をするのはやりづらいものだな
」と愚痴をこぼしました。 幹部の家が盗聴されているのを度忘れしてしまったのです。 これを聞いた金正恩氏は怒髪天。 そんな中、
玄氏にとって、さらに致命的な出来事が起きたのです。
4月下旬、軍の幹部大会が平壌で行われ、金正恩は演説をしました。 彼はいつも、自分が演説をしている時に他の人がどういう表情でそれに対しているのか、後でモニターでチェック
しています。
そこで玄氏がウトウトしているのを発見しました。 ただでさえ頭に来ていた正恩は「もう銃殺しろ」。 その後、4月30日に軍官学校の憲兵場で、
250人ほどの将校クラスを集めて高射砲で銃殺することになったのです。
銃殺に用い
られたのは四身高射砲という、本来なら飛行機を攻撃する際に使われる機関銃で、これは銃身が4つ束ねてあり、1つの銃身から、
1分間に150発、14・5ミリの弾が出ます。 つまり、4つの銃身からは600発の弾が発射される銃です。
まず頭から、そして足の方まで撃ちおろして
いきました。当然、彼はこっぱみじんになって絶命しました。 この様子を目の当たりにした将校たちは、砕け散る肉片に己の行く末を重ね合せ、恐怖に慄いたに違いありません。
この記事を読めば、重要会議やミサイル実験、軍事パレードなどに参加している幹部たちが、皆異常な程に規律正しく振る舞い、一斉に起立し、手を抜くことなく拍手し続けているのがなにゆえかが分かろうというものだ。 後で自身の立ち振る舞いが「首領様」からモニターでチェックされることを知ったら、一瞬たりとも気を抜くことが出来るはずがない。
高氏によれば、こうした正恩の性向は後継者になった直後から出ていたようである。 世襲が決まった2009年、国家安全保衛部の事業を掌握した金正恩氏は、まず
韓国に対する工作機関の統一戦線部を徹底調査し、7名を不正に関与していたとして銃殺している。
彼は歴史上初めて、党の大幹部を他の者の前で座らせたまま銃殺したのである。 これが金正恩氏の恐怖政治の始まりで、2011年に父・
金正日(キム・ジョンイル)総書記が亡くなった後、この傾向はますます加速していくことになったようである。
「むかっとしてミサイル発射」元料理人に正恩氏語る
一方、金正恩第1書記が日常生活の中で、どのように暮らしているかを知る手がかりが、4月26日付の毎日新聞・会員限定有料記事の中に記されていた。
金正日(キム・ジョンイル)総書記の元専属料理人であった、藤本健二氏(仮名)が4月12日に北朝鮮を訪れた際に、金正恩氏や妹の与正(ヨジョン)氏、側近の崔竜海(チェ・リョンヘ)書記らを交え、3時間にわたり食事を共にされたようである。
その際に、赤ワインで乾杯した後、金正恩氏はまず「日本国は今、我が国をどう見ているのか」と質問、藤本氏が「最悪です」と応じると「そうか」とうなずきながら聞いていたという。 どうやら、
国際社会から批判される中で、自身が行っている核やミサイル実験などについて、彼が日本をはじめ各国がどのように受け止めているか、強い関心を持っていることは確かなようである。
その後、相次ぐ核ミサイル実験について金第1書記は「戦争する気はない。 外交の人間が米国に近づくと無理難題を突き付けてくる。 むかっとしてミサイルを発射している」と発言したというから、どうやらそんなところが彼
が執拗に軍拡を進めている本音であるのかもしれない。
また、彼の発言には米国がとっている行動の一部が見え隠れしているようで興味深い。
いずれにしろ、藤本健二氏の語るところをお聞ききしていると、狂気の金正恩氏の主催した宴とは思えぬほど、穏やかな雰囲気での夕食会であったようである。 それは、気の許せる者だけが集まった
心の安まる場であったからで、逆の立場になった時には、疑心暗鬼にかられ、不安にさいなまわれて我が身を守らんがために、
狂気的な行為に出ることになっているのだろう。
腹違いの兄・金正男(キム・ジョンナム)氏を、マレーシアの首都クアランプールで工作員を使って毒殺したことや、叔父に当たる張成沢(チャン・ソンテク)氏など近親者や側近者の粛清を相次いで行って来たことを考えると、彼の心の中に独裁者ならではの
強い「孤立感」と「恐怖感」が秘められていることは間違いないようだ。
問題は、こうした孤立感や恐怖感が限界に達し、我が身を守るために核弾頭を装備したミサイル発射のボタンを押すことに
なりはしないかという点である。 今は確かに戦争をする気はなく、むかっとしてミサイルを発射しているのかもしれないが、
ナンバー2がいない独裁体制だけに、疑心暗鬼の心とパラノイア(偏執狂)的性格が相まって
、発射命令を出さないとは言いきれないからである。
対峙(たいじ)している相手が尋常でないトランプ大統領だけに、これから先も、不安な状況は続きそうである。