6日(日本時間7日)に行われた米国によるシリア空軍基地への空爆は、世界を混乱へと導いている。 なんと言っても気になるのは、ロシアと共にIS(イスラム国)を破壊し、シリアの内戦には関わりを持たないと繰り返し発言してきていたトランプ大統領の豹変ぶりである。 さらにもう一点、今回の攻撃が国際法上正当な行為であったかどうかという疑問点も問題として残りそうだ。
シリアの子供がもだえ苦しむ姿を見たら、誰もがシリア軍の行為を許せないと思うに違いない。 しかし、ことはそんなに簡単なものではなさそうだ。 前回も記しておいたように、今回の悲劇がシリア軍によって使用された化学兵器によるものであるかどうかが、はっきりしていないからである。
思い起こすのは2003年前にブッシュ政権がイラク戦争に踏み切った時のことである。 米国は、当時のイラクのフセイン政権が化学兵器などの大量破壊兵器を保有し、国連安保理事会決議に違反していることを理由に、イラクへの攻撃を開始した。
しかしその後、国連の調査機関が現地に赴き調査した結果、その情報はまったくの誤りで、イラクはそうした大量破壊兵器は何も保有していないことが判明し、米国は開戦の大義を失ったことを、読者も覚えておられることだろう。
今回もまた、米国政府はアサド政権が化学兵器を保有しており、それを政府軍が保有し使用したものだという証拠を一切示さないまま空爆に踏み切っている。 なのに、フランスやドイツ、イタリアなどは、米国の今回の攻撃の正当性を認める声明を発表している。 我が国もまた同様である。 前回の教訓を生かせてないようである。
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プーチン大統領は、今回の米国の攻撃は国際法違反で侵略行為だと、
強く反発。 これで米露間の関係悪化は一段と進むことになりそうである。
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これに対するプーチン大統領の強い反発が気がかりだ。 私自身も合点がいかない点がある。それは米国の唱えるシリア政府軍首謀説である。 前回も記したように、なにゆえ今、シリア軍が世界中から非難を浴びることを承知の上で、化学兵器を使うことになったのかという点である。 今やシリア情勢は政府軍が絶対的に優位な立場に立っており、反政府軍の制圧は時間の問題となっているからである。
納得感のいかないもう一点は、トランプ大統領の豹変振りである。 ロシアのプーチン大統領と手を組みIS(イスラム国)を撲滅するのが一番だと、選挙期間中から繰り返し述べ来ていた男が、テレビの画像で子供の苦しむ姿を見たからと言って、手の平を返したように攻撃に転じ、手を組むはずのプーチン大統領を敵に回すようなことをするものだろうか。
オバマ大統領を口だけで何も行動しなかったと批判し続けて来た手前、このままでは自分自身に同じ批判が向けられることを恐れた為ではないか、という意見もあるようだが、私はそんな単純な理由ではないように思える。
米露の関係改善を思わしく思わない勢力や、IS(イスラム国)の衰退を思わしく思わない存在がおり、それらが裏で密かに画策し、何かの見返りにトランプ大統領の考えを変えさせたのではなかろうか。 「イスラム国とバグダディの実体」に登場するジョン・マケイン上院議員が、今回のミサイル発射後間もなく、トランプ大統領の決断に賛成の意向を発表している点も気になるところである。 彼はISを世に産み出した勢力の一員だといわれているからだ。
いずれにしろ、我々にはトランプ大統領の決断が、新たな世界戦争の口火にならない事を祈るしかないが、ロシアの国営テレビは、攻撃を受けたシャイラート空軍基地はISを攻撃するための拠点で、毎日爆撃機が出撃していることを報じ、米国は空軍基地を爆撃することによって、ISを支援するという真逆な結果を生んだようだと、皮肉混じりに伝えていた。
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