シリアのクルド部隊に越境侵略を始めたトルコ
|
|
|
|
シリア北部のクルド人陣地に侵攻するトルコ軍。
実は使われている戦車はドイツ製なのである。 |
|
中東地域で不穏な動きが始まり出した。一つはトルコと米国との関係の緊迫化、もう一つはイスラエルとイラン、パキスタンとの対立である。一歩間違うとハルマゲドンに向かう可能性があるだけに、その行方はしっかりは把握しておく必要がある。
今回は、まずトルコと米国との対立関係についてお伝えすることにする。 そこにはクルド族を巡る動きが含まれているので、まずはその点からお伝えすることにする。
これから先、もしも世界的規模の戦争が発生することになるとしたら、その発火点の一つ
となるのがトルコを巡るトラブルの可能性が大きいことは、これまでに何度か記してきた通りである。
欧州とアジア、中東諸国と接する重要な位置にあるトルコは、NATO(北大西洋条約機構)に属して欧米諸国と戦略的な同盟関係にありながら、このところ何かとぎくしゃくして来ている
。 一方で、ロシアやイランなど反NATOの主要国と緊密な関係を築いて来ており、非常に微妙な立場に立っている。
そうした状況下で、トルコ軍が隣国シリアに越境し、クルド人勢力の支配する地域へ軍事侵攻を始めたのが1月20日。 それは、シリアで活動が活発化して来ているクルド人部隊を
トルコと接する地域にあるアフリンやマンビシュから撤退させるためであった。
問題はこのマンビシュにはクルド部隊を支援するために、米軍が駐屯していることである。 もしも、このまま事態が進行すると、NATOの加盟国同士のトルコと米国が軍事衝突する恐れが懸念される事態となったのだ。 そこで急遽、中東を訪れていた米国のティラーソン国務長官が急遽トルコを訪問し、16日、エルドアン大統領や外相と会談することとなったのだ。
クルド族とは
|
|
|
|
民族衣装を身に付けたクルド人 ( ウィキペディアより )
|
|
これから先、トルコや中東を巡る動きの中で、「クルド族」とか「クルド部隊」という言葉が頻繁に登場することになりそうなので、ここで、読者があまり聞き慣れていない「クルド民族」に関して簡単に説明しておく
ので、是非、頭に入れておいて頂きたい。
クルド人はトルコやイラク、イラン、シリアなどに分散して住む中東の先住民族で、人口は約3000万人、国を持たない民族としては世界で最大の民族と言われて
いる。 トルコには1140万人、イランには480万人、イラクには400万人、シリアには51万人が住んでいる。
彼らの歴史をたどると、祖先は、紀元前8世紀にイラン高原でメディア王国を建国したインドーヨーロッパ語族のメディア人で、紀元前6世紀の半ばに、ペルシャ人によって滅ぼされて以後、分散して国を持たない民族となったようである。
これまであまり目立った動きがなかったクルド人が、最近ニュースにしばしば登場するようになったのには、二つの要因があった。その一つは、トルコやイラクなどで暮らすくクルドの人々が次第に
民族意識に目覚め、差別化された境遇に不満を持つようになって反政府的な行動に出るようになったこと。
もう一つの要因は、そうした反政府的な行動に出る人々の中に武器を持った部隊が誕生し、ISやシリア政府軍との戦闘に加わるようになったことである。
部隊の目標は自国領土を確保することであり、その武器の提供国は他ならぬ米国であった。 ここでもまた、米国はカルマを積むこととなったのだ。
イスラエルと米国の一部の勢力が中東に混乱を起こさせるために誕生させたIS(イスラム国)が大きくなり過ぎたために、米国はクルド人部隊を使ってその力を削ぐことに
なった。 また一方で、米国はアサド政権の崩壊を願うイスラエルを支援するために、クルド人部隊をシリアの反政府軍にも加わらせて、今ではその中枢を担うまでになって来ているのである。
その結果、現在シリアで戦闘を行っているクルド人は大きく分けると、次の2つの部隊に属している
ことになる。 @:IS(イスラム国)の壊滅作戦に参加している部隊。 A:シリア政府軍と戦っている反政府軍に加わっている部隊。
ギクシャクして来たトルコと米国
|
|
|
|
急遽開催されたトルコのエルドアン大統領と米国のティラーソン国務長官の会談 |
|
米国がクルド人部隊を創設し武器の提供を行って来たことはいまや公然の事実となっている。 それはトルコ内に誕生した反政府勢力・クルド労働者党(PKK)を勢いづかせることにもなっているため、エルドアン大統領率いるトルコ政府は米国に対して大きな不満を持つところとなった。
そのため、トルコ政府はかねてから米国政府に抗議していたが、聞き入れられなかったため、とうとうシリアに越境して、クルド人部隊への攻撃に踏み切ることになったわけである。 その結果、トルコと接するシリア北部に住むクルド人の一般住民が、爆撃に巻き込まれて多数の死者が発生する事態になってしまったのだ。
こうした動きを受けて、ティラーソン国務長官が急遽トルコを訪問し、エルドアン大統領や外相と会談することとなったのである。 しかし、両国関係がかってない程、緊張している中で行われた会談は、大変難しい会談となり、改めて緊張緩和へ向けての協議の場を立ち上げることになったものの、どうやら
クルド問題については、事実上の物別れとなったようである。
トルコ政府は米国に対して、今後、クルド人部隊にあらゆる武器の提供を止めることと、既に提供している火炎放射器などの重火器を急ぎ回収することを迫ったようである。 これを受け入れ
てクルドとの関係を断てば、米国はシリアでの影響力を失うことになるなるだけに、はい分かりましたといかないことは確かである。
3月中旬までに開くことになっている両国の初会合が難航するようなら、トルコは米軍が駐屯しているマンビシュへの攻撃に踏み切ることになるかもしれない。 また、
米軍はトルコにある軍事基地から撤退を余儀なくされる可能もある。 もしもそうなったら一大事である。
実はもう一点気になる点があるのだ。 それは、トルコ軍が保有し今回のクルド部隊への攻撃に使用している戦車がドイツ製だという点である。 このことは、
一歩間違うと米国とドイツとの関係を悪化させることにもなりかねないだけに、気になるところである。
|