ハルマゲドンへの口火となる可能性が大きいだけに、シリアを巡る中東情勢について連載してきたが、今回は地獄と化したシリアの首都・ダマスカスの近郊・東グータ地区と、シリア北部のクルド人が住むアフリンの惨状をお伝えすることにする。
トルコ軍がシリア領内のクルド勢力を滅ぼすためシリアに越境し、北部アフリン攻撃する中、この越境行為を不服としたアサド政権がアフリンに軍を派遣することになったことは、「緊張感を増してきた中東情勢
A」で記した。
しかし、シリア政府が派遣したのは政府軍ではなく、民兵部隊であることが分かった。 そのため、トルコとシリア間の戦争開始という事態には至っていないようである。 今回のトルコ軍の越境派兵については、トルコのエルドアン大統領はロシア政府やイラン政府に事前に根回しをしていたため、両国に対する配慮から、アサド大統領としても政府軍を派遣することは出来なかったものと思われる。
ドイツ製の戦車を投入して攻撃するトルコ軍には、民兵部隊では太刀打ちできない。 そのためしばらくはトルコ軍の攻撃の様子を見ることになりそうである。 まずは一安心だが、そうした情勢下、地獄を味わっているのは、砲弾が撃ち込まれ続けているアフリンのクルド族の人々である。 子供たちの中に多くの死傷者が出ているようなので心配だ。
一方、アサド政権と対峙する反政府軍の最後の拠点となっている首都近郊の街・東グータ地区は、政府軍とロシア軍による空爆で街は廃墟と化し、逃げ場のない多くの一般市民が生き地獄を味わっている。 シリア人権監視団によると、21日までの4日間で既に死者の数は310人に達しており、その中には72人の子供が含まれ、負傷者は1500人を超えているようである。
街の周囲は政府軍が包囲しているため住民は避難が出来ず、そこに次々と爆弾が落ちてくるのだからたまったものではない。 これを「生き地獄」と呼ばずに何と言うのか。 人道的危機に対処するため急遽開かれた国連の安全保障理事会で、戦闘の即時停止を求めたグテーレス事務総長は、東グータ地区は「この世の地獄だ!」とその悲惨な状況を語っている。
読者は昨年の3月31日の記事「アレッポの悲劇」をよもや忘れてはいまい。 鼻と口から血を流しながら、「ママはどこ?」
と既に亡くなっている母親を探す姿の映像を思い出すたびに、心がかきむしられる思いに駆られる。 あのアレッポの悲劇から10ヵ月後の今、場所を変えて東グータ地区で同じことが起きているのだ。
ユニセフの中東・北アフリカ地域事務所代表は、「子供たちを殺害し、重傷を負わせ苦しめていることに責任がある人たちは、この野蛮な行為を正当化する言葉があるのか」と語っている。 まさにその通りである。 この言葉はアフリンだけでなく、今世界で起きている全ての紛争に関わっている人たちに当てはまる。
世の政治家たちの中で、高次元世界へ旅立てる人物はどれほどいるだろうか? 高次元どころか魂の抹消に向かう者の方が遥かに多いことは間違いない。 どこかの国の元大統領親子を筆頭に、彼らは皆、抹消される前に「地獄が天国に見える」世界へと連れていかれ、アレッポやアフリン、東グータ地区の子供や両親が味わった地獄の苦しみを、数え切れないほど繰り返し味わった後、魂の抹消へと進むことになるのだ。
願わくば、苦しみと悲しみ、憎しみの渦巻く3次元世界の再生が一刻も早く始まって欲しいものだ。 連日のように暗いニュースを書き続けていると、そう願わずにはいられない気持ちになって来る。 異常気象による災害のニュースも悲惨だが、記事を書く私からすると、心をえぐられる度合いはハリケーンや台風の方が遥かに小さく感じられる。 お読みになられる読者はいかがだろうか。