読者は「ハッチョウトンボ」という小さな赤トンボを見たことがあるだろうか。 別名を「コアカネ」と呼ばれ、体長はわずか1.7〜2.1センチ1円玉の大きさ、日本で200種類ほどいるトンボの中で一番小さなトンボである。
知人に長野県南部の駒ヶ根市の運動公園に行くと「ハッチョウトンボ」を見ることが出来ると教えられ、早速撮影に出掛けた。 このトンボは日当たりが良くきれいな水が流れる浅い湿地帯に棲むため、
駒ヶ根市の運動場脇の生息地はこうした環境を保つために、「ハッチョウトンボを育む会」が毎年草刈りをして、丈の長い草が生えて産卵場所の水面がなくならないよう管理しているとのことであった。
40センチほどの草が密生した湿原で1円玉ほどのトンボを見つけるのは大変。 時期が少々遅くなっていたので見ることが出来ないかなと心配したが、目を皿のようにして探したところ、2匹の姿を見つけることが出来た。
飛んでいる姿はまるでハエかアブのようで、色が赤色でなければ見つけることが出来なかったかもしれない。
先月、日本最大のトンボ「オニヤンマ」を撮影した後だっただけに、その姿がなおさら小さく見えて、とてもトンボを撮っている感じではなかった。 水際に張られたロープで身体を支えて、出来るだけ近くによって接眼レンズで撮影したのが下の写真Aである。
その姿は先週掲載したナツアカネを小さくした感じで、頭部から胴体の先まで見事な赤色で覆われ、羽根の付け根の部分も赤く染まっている。
ハッチョウトンボから目を離しふと周囲を見回すと、近くの茂った葉の上に、ハッチョウトンボよりさらに小さい蚊によく似た昆虫が止まっていた。 よく見るとその羽根が太陽に照らされてなんとも美しく輝いていた。 その場では気がつかなかったが撮影した写真をアップして見ると、なんと6本の足の細くて長いこと。 よくこんなに細い足が折れずにいるものだと感心させられた。
図鑑で調べてみたが名前がはっきりしなかったので、昆虫ブログ「むし探検広場」の園長さんにお尋ねしたところ、ガガンボの仲間で、キイロホソガガンボ(Nephrotoma属)の一種だという。 胸部と頭部が黄色であることか
らつけられて名前のようだ。 小さな昆虫を撮影していると、天はなんとも可愛らしい生物を産み出すものだ、と感心させられることが多い。
撮影を終えて隣接した湿地帯を訪ねると、オニヤンマが飛び交っている。 ここでもまた雄のオニヤンマは飛ぶスピードが速く撮影は難しかったが、メスがちょうど産卵の時期であったため、
幸運にも池の中の草の茎に止まって産卵する珍しい写真を撮ることが出来た。
産卵で疲れたためかメスの一匹が草木に止まってくれたので、
その様子をクローズアップで撮影することが出来た。 こうしたチャンスに巡り会うこともまた珍しいことである。 前回「
オニヤンマを追う」で掲載した写真と比較してみると、その姿の違いがお分かりになるはずだ。
今年の夏はオニヤンマのオスとメス、それに産卵の姿まで撮影出来て驚きであった。 それにしても、オニヤンマとの不思議なご縁を感じさせられた出会いであった。