先月、EU(欧州連合)とトルコとの間で結ばれた難民引き渡しに関する協定に基づき、4日からギリシャからトルコに向けた難民や移民の移送が始まった。 しかし、送還開始初日から抗議する難民や支援者による抗議デモで送還はストップ。 その後、数日前から再び送還が始まっているが、その数は少なく、まだ400人に達していない。
その一方で、4日から10日までの間にトルコからギリシャの島々に到着した難民・移民の数は1000人を超えており、ギリシャに滞在する難民の数は減るどころか増え続ける状況が続いている。 そうした状況の中、10日には、ギリシャとマケドニアとの国境に張られたフェンス沿いで暴動が発生し、緊迫感が増している。
難民たちは当初は、平和的に閉鎖を続けるマケドニアに向かって入国を要請していたが、その後、ラチのあかないのに業を煮やした一部の難民がフェンスを破り、石を投げて強行突破するところとなった。 それに対して、マケドニアの警備員たちは催涙ガスとゴム弾で応酬。 衝突は数時間に及び、催涙ガスはフェンス近くに張られたテントの中にまで入り、テント内にいた女性や子供たちを直撃。 多数の負傷者が出て慈善団体が救助活動を行うところとなった。
事件の起きたギリシャ北部の町ユドメニの難民施設には、今もなお1万1000人を超える難民たちが留まり続けており、彼らはEUとトルコの協定英傑など眼中になく、マケドニアを経由しドイツなどヨーロッパ諸国に渡ろうとしている。 厳しいテント暮らしを続けているそんな彼らにとって、いつまでも張られ続ける国境フェンスは、未来への希望を閉ざす檻(おり)以外の何物でもないのだ。
命がけで海を渡り寒さの中、乳飲み子を抱いてユドメニまでたどり着いた難民や移民たちにとって、トルコに戻るなどと言う考えは微塵もないのだ。 だからこそ、滞在する難民の数は協定締結の後もまったく減らず、こうしたフェンスを破ろうとする抗議行動が行われているのである。
これから先、難民問題は容易に解決することは望み薄である。そして、もしも難民の渡航ルートが、「バルカンルート」から危険度が大きい「地中海ルート」に移るようなことになれば、EUは人道上の罪を背負うことになるかもしれない。