以前記した、「中国が抱えたもう一つの爆弾」で、蔓延する拝金主義や広がる一方の格差に嫌気がさした若者たちが、心の救いを求めてキリスト教や儒教に入門するケースが急増していることを記した。 読者は覚えておられるだろうか。
その結果、キリスト教徒の数はここ数年で600万人から一気に1億人へと急増し 、既に共産党員の数を上回るほどになって来ているのだ。
最近の情報では、急増しているのはキリスト教徒だけでなく、仏教へ帰依する人の数もまた急激に増加しているようである。 経済の減速が続く中国では企業の倒産が相次ぎ、新設の企業の寿命は3年と言われるほど厳しい状況になっている。 そうした中、経済的な豊かさだけを追い求める風潮に失望した若者たちを中心に、仏教を心の拠り所にする人々が急増、その数はキリスト教徒1億人を遙かに上回る3億人に達している。
弘法大師・空海が仏教を学ぼうと中国に渡ったことを知る読者の中には、中国を仏教国と勘違いして、3億人の仏教徒数を当然のように思われる方もおられるかもしれないが、無神論の中国共産党が支配する今の中国は
、決して仏教国でもなければ、キリスト教国でもないのだ。 先の文化大革命において、あらゆる宗教が徹底的に弾圧され、寺院や教会がことごとく焼き払われ、仏像や十字架が破壊されたことを思い起こして頂ければ、お分かり頂けるはずだ。
そんな中国で今、一大仏教ブームが発生している背景には、キリスト教徒の急増と同様「格差の拡大」や「社会の不平等」「激しい出世競争」などの要因があるようだ。 文化革命直後には、誰もが豊かになれるという希望があったが、そうした夢がことごとく幻想と化してしまった今は、豊かな人々はどんどん豊かになる一方、貧しい人々は貧しいまま、これでは格差は広がる一方である。
また、中国社会全体にコネが横行し汚職が蔓延。 それがいかにひどいものかは、官僚や公務員の汚職摘発数が、この1年間だけでも5万件を超えていることを知れば分かるはずだ。 一方 13億人
を超える人口は必然的に激しい競争社会を生み出し、そこで勝ち抜くためには、人を騙し嘘をつくことは当たり前
となっている(下段の写真のコメント参照)。 こうした状況は我々日本人が考えているより遙かに深刻化してきているのだ。
共産党政権はこうした世情に対してどう対処しようとしているのだろうか? 建国以来、神の存在を認めない無神論を堅持してきた中国共産党が、宗教政策を大きく転換する
こととなったのは、胡錦涛主席時代の2007年に開かれた三中全会(中央委員会全体会議)であった。
格差や相次ぐ幹部の汚職や腐敗に国民の怒りの声が、次第に高まって来ていることを察知した共産党幹部は、宗教の広がりを無理して抑えるよりは、社会に広がる不平不満を和らげる手段として、宗教や伝統的思想を利用しようと考えたのである。 仏教をはじめ、キリスト教、イスラム教、儒教など全ての宗教組織を共産党の管理下に置いて、政治色を出さないようコントロールしていこうと考えたわけである。
無神論の中国共産党が宗教の力に頼って国を治めようとしたのは、なんとも皮肉なことだ。
しかしここに来て、習近平政権にとって、1億人に達しようとしているキリスト教徒の言動が、目の上のタンコブとなって来たようで、キリスト教に対する締め付けと教会つぶしが、既に始まり出していることは、「中国崩壊の新たな起爆材」で記した通りである。
今のところ宗教の広がりが共産党や周近平政権崩壊を目指すところまでは至っていないが、宗教の拡大の真の要因が、一党独裁の共産党政権
がもたらした格差拡大や社会の不平等に対する強い不平、不満であるだけに、
その思いがいつ表面化するかという点が問題である。
もしも、国民の半分近くに達している5億人を上回る、仏教をはじめ、キリスト教、イスラム教、儒教など
の信者が一斉に立ち上がった時には、共産党政権の崩壊は避けることは出来ないのではなかろうか。 正確な時期は定かでないが、そう遠くない内に、
軍を動員した宗教弾圧により、多くの人の血が流される時がやって来そうである。