ゴールデンウイークで休日を謳歌している我が国であるが、悲惨な難民問題を抱えて中東やヨーロッパ、トルコではここに来てまた新たな難問が発生、状況は一段と厳しさを増してきている。 新たに発生した問題の一つはトルコの首相の辞任。 もう一点は休戦中のシリアで多数の死者が発生した難民キャンプ空爆である。
先ずは、トルコの政治情勢の動きである。 5日、トルコのダウトオール首相の突然辞任発表を受けて、トルコだけでなくヨーロッパ諸国にも大きな波紋が広がっている。 ダウトオール首相はこれまでトルコ経由でヨーロッパ諸国に渡る難民問題の解決に向けて、EU(欧州連合)との協議役の中心を担ってきた来た人物だけに、突然の辞任劇は衝撃波を発している。
ヨーロッパへの玄関口となっていたギリシャに渡った難民全員を、トルコがいったん受け入れることが合意されたのが3月。 この合意を受けてトルコからギリシャに渡る難民が大幅に減少する一方、アフリカのリビアからイタリアに渡る地中海ルートの難民が急増し、大量の死者が出ていることは「地中海ルートで難民500人死亡か」でお伝えした通りである。
トルコとEUとの間で成立した合意は、ダウトオール首相がドイツのメルケル首相と話し合い、首相独自の判断で決めたものであったようだ。 その結果、これを快く思わないエルドアン大統領との間に亀裂が生じてきていたようで、両者の争いで首相は辞任へと追いこまれるところとなったというわけである。
首相はこれまでにも、大統領の強権的手法や強権発動のための憲法改正には批判的であったが、今回の首相辞任によって大統領の意向に沿った政治が一段と進むことになりそうである。 問題は、トルコとEUとの合意の行方と、対立が続くトルコとロシアの先行きである。
エルドアン大統領は先のEUとの合意を快く思っておらず、かねてから300万人の難民を受け入れているトルコに対して、EUの支援が不十分だと語ってきていただけに、これから先、難民全員の送還の受け入れがスムーズに行われるかどうか、疑問である。
またIS(イスラム国)からの原油をエルドアン大統領の親族が買い取っていたとされているだけに、その施設を攻撃したロシア政府に対する大統領の恨みは深い。 これから先、親大統領派の新首相を任命してより強権政治が行われれば、対ロシアとの関係はさらに悪化する可能性が強くなってくる。 そしてこの問題は即、EU対ロシアの関係悪化、さらには案じられる最終大戦にもつながる可能性があるだけに、見逃せない問題である。
冒頭に記したもう一つの問題は、休戦中のシリアにおいて戦闘が再開され、多くの犠牲者が出ていることである。 シリア政府と反政府軍との5年間にわたって続けられて来た戦闘。 国連の仲介で和平協議が進められる中、しばらく休戦状態が続き、なんとか大規模な戦闘は行われない状態が維持されて来ているものの、ここに来てシリア北部で部分的な戦闘が再開され始めている。
昨日のドイツZDFテレビは、シリア北西部、トルコとの国境近くにある避難民キャンプ地が2回にわたって空爆され、多くの女性や子供を含む30人近い難民が死亡したことを伝えている。 映像には避難民が生活してきていたテントがずたずたに破られて燃え盛る中、懸命に消火活動が行われている場面が映し出されていた。
難民施設が設けられたイドリブ県にあるサルマダは、反政府軍が支配している地域だけに、アサド政府軍による空爆ではないかと思われるが、被害に遭うのはいつも弱者。 自分の住まいを戦闘で追われ、避難先のキャンプで厳しい生活を余儀なくされてきているそんな難民がキャンプ地で空爆に遭ってはたまったものではない。 もはや悲惨とか悲劇という言葉では言い尽くせない、まさにこの世の生き地獄である。
万が一、シリア停戦が崩壊し再び内戦状態に入るようなら、ヨーロッパへの難民はさらに急増することは避けられない。 一方、その難民問題を解決しようとしているEUは、トルコ政府の内紛で再び難しい状況に立たされことは必至。 こうして見てみると、世界各地で発生しているトラブルはなに一つ解決されないまま、悪化する方向に向かっているのが分かる。 これから先、地獄を味わうのは難民だけではなくりそうである。