政府軍と反政府軍、さらには過激派組織IS(イスラム国)とアルカイーダが入り交じった戦いが続く中東。 市民はまさに地獄絵の中で暮らしており、日に日に死者
と難民の数は増える一方である。 こうした悲惨な状況下、緊張緩和が求められる中で逆に緊張を加速する新たな動きが始まってしまった。
まさに恐れていたことである。
サウジアラビアでイスラム教シーア派の指導者ニムル師に対し、国王に逆らい宗派対立を先導した罪で死刑が執行され、周辺地域の緊張が高まるところとなった。 早速、シーア派が多数を占めるイランでは、最高指導者ハメネイ師が、「ニムル師の死刑執行はサウジアラビアの政治的な誤りで、神は決して見過ごさない」と
強く反発。
街では抗議する集会やデモが行われ、暴徒化した人々がサウジアラビア大使館を襲撃、放火する事態が発生した。 抗議デモ
やスンニ派のモスクに対する襲撃事件は、イランだけでなくシーア派の多いイラクやバーレーンでも行われ、周辺各地に拡大して来ている。
これに対して、サウジアラビアのジュベイル外相は
早々にイランとの外交関係断絶を発表、外交団に対して48時間以内に退去することを求めた。
また同日、サウジアラビアと同様スンニ派の王族が支配するバーレーン政府
や、スンニ派が多数を占めるスーダンもイランとの外交断絶を発表。 さらにUAE(アラブ首長国)も厳しい措置を発表している。
シリア、イラクだけでなくリビアやイエメンなどの内戦の裏には、スンニ派対シーア派の対立が見え隠れしていただけに、ペルシャ湾岸の二つの大国サウジアラビアとイランの対立はシリアやイラクだけでなく、
今月にも始まるシリアの和平交渉、さらにはイエメンやリビアの和平協議にも影響が広がる可能性があり、中東情勢はこれから先、さらに厳しい状況に突入することになりそうである。
こうした中東諸国の対立をなにより喜んでいるのはイスラエル。 イスラエルはイランの核武装化に強い懸念を抱いているだけに、欧米諸国との核開発協議が
妥結し、再び国際社会に復帰しようとしているイランに対して、何らかの武力行使を行うことになる可能性は決して小さくない。
中東で宗派間対立が増せば増すほど、もしもそうした事態が起きたとしても、サウジアラビアなどスンニ派諸国は傍観することとなるのではなかろうか。
さらに心配な点は、イランだけでなくイスラエルによるパレスティナ市民に対する武力行使も再開されることになるかもしれない点だ。 予想していた通り、ますます中東情勢からは目が離せなくなって来たようである。