トルコ送還難民受け入れを表明、しかし・・・・
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EUの臨時首脳会議で難民の送還受け入れを表明するトルコのダウトゥル首相
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EUの入り口であるギリシャが満杯状態となろうとしていることは前回記した通りである。 ここで問題になってくるのが、
ギリシャへの難民の経由地となっているトルコの対応である。 7日ベルギーのブリュッセルでトルコの首相を交えてのEUの臨時首脳会議が開かれた。
(現在トルコはEUに加盟していない)
昼食を挟んで数時間で終わる予定の会議は、深夜まで及ぶところとなった。 トルコが難民問題について新たな提案を行ったからである。 それは、今後トルコからギリシャに密航するすべての難民・移民の送還をトルコが受け入れる一方、EU(欧州連合)各国は保護が必要と認められた難民を「第3国定住」の形で受け入れるという提案であった。
一見、見事な解決策のように思えるが、この提案にはいろいろと問題点があるのだ。 それについては改めて記すことにするが、 特に問題だと思われるのは、トルコ政府がこれから先、密航業者によるギリシャへの難民をどれだけ防げるかという点と、EUの全ての国が「第3国定住」として割り振られる難民を受け入れるかという点である。
EU加盟国は昨年9月に、計16万人の難民受け入れを分担する事で合意したが、その後の動きは鈍く、これまでに受け入れられたのはわずか600人程度である。 それを考えると、割り振り人数の受け入れには大いに問題がありそうだ。 トルコ政府が密航業者の取り締まりが十分に出来ず、密航業者による難民の数が増え続ければ、
なおさらである。
トルコがEUに求めている、今後3年間で60億ユーロ(7800億円)の支援や、EU加盟交渉の加速化、6月までのEU加盟国へのビザなし渡航の自由化などについての要求も、問題点の一つである。 一方、ギリシャに渡った難民・移民をまとめてトルコに送還する措置については、早くも、国連の高等弁務官事務所の高官から「欧州の法律にも国際法にも違反している」と強い懸念が表明されている点も気になるところである。
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ギリシャから1000人を強制送還したときには、同じ数のシリア難民を
EU各国が受け入れる。問題はトルコがどれだけの密航を防ぐことが出来るかだ。
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こうした問題点は、17,18日に開かれるEU首脳会議で議論された上結論が出されることになるが、いずれにしろ、今EU各国が難民問題解決の最後の拠り所としているのが、トルコの対応であることは間違いないが、そのトルコはいま難民問題とは別に、ロシアの空軍機撃墜によって発生したロシア政府との間のトラブルの他、幾つかの世情不安の問題を抱えている点も気になるところである。
クルド族との対応を巡って過激派クルド人組織からテロ攻撃を受ける一方、IS(イスラム国)からもテロを仕掛けられ
、多数の死者や負傷者が出るテロが
連続的に発生しており、世情が不安になって来ている。 さらにここに来て報道の自由を巡って新たな問題が発生し、先行きがさらに不安視されている。
今月4日に、裁判所がエルドアン大統領を批判するトルコ最大の発行部数を誇るザマン紙を
、政府の管理下に置く決定を下し、さらに7日には同紙系列のジハン通信社まで政府管理下に置かれることになった。 これではまるで中国の共産党政権と変わらなくなってしまう。
この決定に対して大規模なデモが発生。 ザマン紙の本社前で行われた平和的な抗議デモに対して
、警察隊が催眠ガスと高圧放水銃で反撃したことで大混乱。 マスコミは一斉に「憲法は無視された」「トルコにとって、最も暗黒な日の一つになった」と
避難の声を伝えており、EU各国からもエルドアン政権の強権的な政治に対する批判の声が上がっている。
どうやらこれから先、
トルコ政府はこうしたデモやテロなどの対応に追われることになりそう
なだけに、難民問題に対する対応がどこまで徹底できるか不安である。 また、これまでにも何回か触れてきたように、トルコが難民問題だけでなく、これから先発生する世界的混乱の発火点となる可能性が大きいだけに、様々な観点からトルコ情勢には関心を払っておく必要がありそうである。
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報道に圧力を強める裁判所の決定に抗議する群衆
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平和的なデモを警察が放水や催涙ガスで鎮圧、反発の声が上がっている。
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EU分裂の危機
こうして見てくると、シリアやイラクの内戦やISとの戦闘が終結しない限り、難民は増える一方で、それをトルコやギリシャに頼って阻止しようとするEU各国の思惑は頓挫することになる可能性が大きい。
そこで問題になってくるのが、難民の受け入れを巡ってのEU内での論争である。 オーストラリアやクロアチア、スロベニアなどのように受け入れをストップしようという国やノルウ
ェーやフランス、イギリスなど、受け入れに厳しい制限を設けようとする国が増えて来ると、EUの最大の特徴である国境の自由通過が出来なくなってくる。 これではEUの存続の意味が無くなってしまう。
これまで見た来たように、当面、ギリシャやトルコに資金を配り、一時凌ぎの手を打つことになるだろうが、それは長続きできそうもない。 その後に待っているのは、
EU各国間の意見の食い違いによる論争とEUの分裂である。 EU加盟国はこれだけはなんとしても防ごうとするだろうが、果たしてどうなるか。
大国イギリスでは6月にEU加盟の是非を問う国民投票が実施されることになっているが、
その結果からも目が離せない。 国民投票の結果次第では、EU分裂の可能性も出てくるかもしれない。
これからの世界情勢を占う上で、難民問題の影響が一番懸念されるのがこの点である。 EUやユーロ圏の崩壊はロシアが世界戦争に踏み出すきっかけとなるからである。
フランスのカレー村の難民騒動
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フランス北部の5000人の難民が暮らすカレー村の「ジャングル」と呼ばれるテント村
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カレー村から30キロほど離れたグランドサントスには2000人の難民が暮らしている
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各国が難民問題で頭を悩ませている中、フランスでは難民の受け入れ施設の取り壊しを巡って、新たな騒動が発生している。 シリア、イラクからの難民の多くはドイツを目指しているが、イギリスに渡ろうとしている難民も多い。 そのため英仏海峡トンネルを通ってフランスからイギリスに渡ろうとする難民が出たため、イギリスの要請でフランス政府が渡航禁止措置を徹底
してきている。
その結果、トンネルに近い北フランスのカレー村やその近くのグランドサント村に多くの難民が居住するようになってしまった。 既にテントや粗末な建物を建てて暮らす難民の数は
、カレー村だけで5000人に達しており、その雑然とした光景から、地元の住人からはテント村は「ジャングル」と呼ばれている。
難民の数が増えたことから、近隣の住人から観光客が減るなどの被害が出ているとして、政府に対してテントや小屋の撤去を行うよう強い要請が出されていた。
今回の施設の取り壊しはそういった経緯で行われたものだが、難民たちは政府に壊されるぐらいなら自分で壊すと言って、テントに火をつける人が出て騒ぎが大きくなっている。
フランス政府は別の場所に収容施設を造ろうとしているようであるが、ここに住む難民たちはイギリスへの渡航を目指しているだけに、英仏海峡トンネルから離れることを嫌がっているようである。 イギリス政府はシリアの難民キャンプから
の移住は受け入れるが、フランス北部の難民・移民は受け入れないとしており、彼らはこれから先不自由な暮らしを強いられることになりそうである。
こうしてみてくると、どうやら難民問題は当の難民はもとより、受け入れ側のEU各国にとっても
容易に解決の目処が立たない難問となって来ているようである。
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テントの撤去に抗議してテントに火を放って焼く難民
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唇を針金で結んで無言で撤去に反対する難民
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