現役時代、金融機関で株式や債券の運用部署の責任者を務めてきた私であるが、今年の正月明けからの世界的な株価急落には驚かされている。 年明けの相場はお祝い気分もあって上げ相場から始まるのが一般的である。 仮に下げるようなことがあっても、1、2日で持ち直すのが通例だ。
ところが今年は600円近い下落から始まって昨日まで4日間の下げ、それも大幅安の連続である。週末の今日も午前の相場はぱっとしない
ところを見ると、マイナスに転じるかもしれない。 中でも驚くのが年初からの中国の株価急落である。 年末に決められたばかりの「サーキットブレーカー」と呼ばれる株価急落を防ぐために用意されたシステムが、なんと年明け初日から発動し、昨日もまた発動するところとなった。
7日の取引状況はあまりに異常。 9時30分にオープンした市場はオープン早々から急落が始まり、わずか13分後の9時43分に下げ幅が5%に達したため、サーキットブレーカーが発動し15分間の取引停止。 その後再開されたが下落が止まらず、わずか1分後の9時59分に下落率が7%に達したため取引は終了となった。
市場が開いていたのはわずか29分間。 15分間の取引停止時間を除くと、売買が出来た時間はなんと14分間であったというわけである。 市場関係者や中国政府のお役人はなんとか株下落に歯止めをかけようと、あの手この手の対策を打ち出しているが、所詮小手先の小細工、かえって打つ手が裏目に出てさらなる株価の下落を招くところとなっているのが実情だ。
「サーキットブレーカー」というシステムは、前回記したように以下のような内容である。
マイナス5%下落 → 15分間の取引停止
マイナス7%下落 → 取引終了
このシステムは、「5%下落したら、投資家たちは頭を冷やすように」と考えて、作られた制度であるが、昨日の動きを見てみると、実際には投資家たちは5%の急落を見て、「これは大変だ! 急いで売らなければ」と考え、15分後の再開と同時に一気に売って来ている。 再開直後の売却量は取引停止前に比べて、なんと2倍を越してきていることがそれを証明している。
スペインTVEによると、この実体に驚いた中国当局は、この「サーキットブレーカー」システムを一時的に停止することを決めたようである。 その一方で
、ロイター通信によると、「大量保有株主の株式売却の半年間停止」措置が期限切れとなる本日8日を前に、「売却株は3ヶ月間で1%以内」にすることと、「売却する場合には、15日前に売却計画を当局に提出」することを義務づけることにしたようである。
この二つの厳しい規制を受けて、今日午前中の上海総合指数は値上がりしているが、大きな反発には至っていないところを見ると、今回の規制措置も一時凌ぎとなりそうである。 というのは、中国市場で株の売買代金のなんと80%を個人投資家が占めているからである。
中国の個人の株式口座数は既に2億口座を上回っており、1日の売買代金は東京証券取引市場の10倍近い20兆円に達している。 これだけ多くの個人投資家が株価の上がり下がりを左右していることを考えると、大株主の売却を止めるだけでは、今回の株価下落の動きは止められないのではなかろうか。
何より心配なのは、売買代金の80%を占める個人投資家のレベルの低さである。 下の写真を見てもらえれば分かるように、その多くが株式投資とは、まったく縁がなさそうな、
おじさんやおばさんたちで占められているのが実情である。 それを考えると、これから先、本格的な株価下落が始まった時の彼らの慌てぶりが目に見えるようである。 どうやら、社会的混乱は想像以上となりそうである。