中国が抱えたもう一つの爆弾

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キリスト教と儒教思想のうねり

 


 
 


天安門広場 ここが再び混乱の場となる日はいつか!


 

 

共産党政権に対する抗議行動が激しさを増す中国。どうやら中国では、長年にわたって蓄積されてきた少数民族や弱者たちの昔年(せきねん)の恨みが火を吹き始めてきているようである。 どうやら先の天安門広場の車突入・炎上事件は、新疆ウィグル自治区で建設されたモスクが、当局によって不当に取り壊されたことに対する恨みが要因であったようだ。

そんな不安な情勢下におかれた中国には、今、多くの方が気づいていない新たな問題が発生しようとしている。難問を引き起こそうとしているのは、ここ数年、中国全土に広がり始めている大きなうねりである。そのうねりとは? 読者 の中には信じ られない方もおられることと思うが、「キリスト教」という宗教と「儒教」という伝統的思想の広がりである

そうした中国の動向については、先般NHKスペッシャル「中国激動 ・ さまよえる人民の心」でも特集していたが、激動する中国の先行きを見通す中で見過ごせない問題なので、今回「中国の抱えたもう一つの爆弾 」としてまとめてみた。しばらくすれば必ずマスコミをにぎわすこととなるはずなので、しっかり頭に入れておいて頂きたい。

建国以来、神の存在を認めない無神論を堅持してきた中国共産党は、長期にわたって宗教や思想に弾圧を加え続けてきた。しかし、時代の趨勢には抗しがたくその姿勢は次第に変化し 、1978年のケ小兵氏による改革開放路線以降は、宗教の自由が当局への届け出を条件に認められるところなった。

この宗教政策が大きく転換するところとなったのは、胡錦涛主席時代の2007年に開かれた三中全会(中央委員会全体会議)であった。格差や相次ぐ幹部の汚職や腐敗に国民の怒りの声が高まってきていることを察知した共産党幹部は、社会に広がる問題に宗教や伝統的思想を利用しようと考えたのである。


急増するキリスト教徒

                    

 

 
 


公認されたキリスト教会の十字架

 

豊かさにあこがれ農村から出稼ぎに来たものの、経済成長の恩恵から取り残され希望を持てずにいる人々、農民戸籍であるが故に都会で家を持つことが出来ずにいる人々、学歴がないため高い賃金の職場に就職が出来ずにいる人々、腐敗した職場で働くことに嫌気がさした治安関係者、さらには、受験競争を勝ち抜き大学に入ったものの、蔓延する拝金主義に嫌気がさした若者たち。

こうした人々が最後の救いを求めて集まって来ている場所がある。それが「家庭教会」と呼ばれているキリスト教の教会である。こうし家庭教会の多くは、当局への届け出をしていないため非公認の教会として中国各地に数多く存在し、個人の家や集会所が使われている。

信者の数が急速に増えているため、当局も黙認をせざるを得なくなって来ており、改革解放運動の始まり当時、600万人ほどだった教徒の数は現在は1億人に達しており、既に共産党員の数を上回るほどになって来ている。 問題は教会が単なる祈りの場だけでなく、共産党幹部や政府への不満や怒りの発散の場となっていることである。

                      

 

 
 


教会に集まり人間らしい生き方が出来るよう祈る、キリスト教徒たち


 

 


儒教の普及も急拡大
             

 

 
 


孔子と儒教


 

 

こうしてキリスト教が急激な広がりを見せる一方で、中国生まれの儒教思想に心のよりどころを求める人々も急増している。毛沢東氏の文化大革命において革命思想を妨げる時代遅れの思想として宗教と共に弾圧されてきた儒教であったが、中華民族の精神の土台として 国の安定化に利用できるのではないかと考えた共産党幹部は、2000年代初め頃から、儒学思想を推進する姿勢に転換することとなった。

キリスト教徒の多くは時代や社会から取り残された弱者や貧者が中心である。一方、儒学思想に救いを求める人々は、競争に勝ち抜き豊かさを手に入れた人々が中心となっている。豊かなはずの彼らがなにゆえ儒教に救いを求めることとなったのか? 貧しい人々が貧困に絶望したように、成功した人々も拝金主義や私利私欲主義社会の裏に隠れた、空虚感にさいなまれるところとなったからである。

大事なのは自分、他人などどうでもよい、金儲けが全てだ、と思っていた人々はこの空虚感を癒すために儒学思想を学ぶ集会へと集結し始めたのである。 儒教の広がりにはもう一つの要因がある。それは、「一人っ子政策」によって誕生した「小皇帝」問題である。

今中国では、一人っ子政策によって大事に育てられ過ぎたために、我がままで協調性に欠け、独りよがりになってしまった子供たちが大量に出現し、「小 皇帝」問題として大きな社会問題となって来ていることは、読者もご存じのはずだ。

そうした子供たちの心を修正するには儒学思想を教えるのが第一だと考え、多くの親たちが極度な自己主義、排他主義に陥った子供たちを 儒学専門学校に送り込んでいるのである。その学校数は1万校、生徒数は数百万に達しているというから、今中国がいかに儒学ブームに沸いているかが分かろうというものである。
                    ☆
 

 

 
 


儒教の集会に集まった人々。彼らは儒教によって拝金主義の空虚感を癒そうとしている。


 

 

吉と出るか凶と出るか

つい十数年前までは無神論者であった数億の中国人が、今やキリスト教という宗教と儒教という伝統思想に向かい始めているのである。その広がりは大きなうねりとなって来ており、政府はそうした流れを 、拡大する一方の格差、蔓延する汚職、消えてしまった倫理観が創り出した歪んだ社会を修正するために利用しようとしているのである。

しかし、この政策は共産党政権にとって一歩間違ったら自らを地獄へと導くことになる大きな爆弾でもあ る。政府は宗教と儒教思想に救いを求め始めた人々の心を利用して国を安定へと導くことが出来るのか、それとも団結した弱者・貧者の強い怒りと怨念によって命を絶たれることになるのか ・・・・・ 。

はっきりしている点は、彼らは共産党幹部の不正や自己主義の醜いまでの実体を熟知した人々の集団でもあることと、マルクスやレーニンの思想に基づいた共産党思想はイエスの説いたキリスト教や孔子が教えた儒教思想とは相反するものであることである。

それゆえ、彼らが一致団結して腐敗した社会を変えようとする動きを始めた時には、共産党政権は手のひらを返したように糾弾し排斥する動きに出ることは必定である。中華人民共和国憲法には、宗教や思想によって社会秩序を乱すことを固く禁じる条項が存在しているからだ。

もしも、キリスト教徒たちや儒教思想者たちによって反政府運動が始まっ時には、差別され続けて来た少数民族や農民戸籍の人々や理財商品のデフォルトで全財産を失おうとしている中間層たちが、その動きに加わることになるのは間違いない。彼らは民族や学歴、年収などバラバラな集団であるが、 腐敗した共産党幹部に対する強い怒りと憎しみという点では、確固たる共通点を持っているからである。

今回の18期三中全会(中央委員会全体会議)でいかなる施策が論議されているか分からないが、キリスト教徒や儒教集団拡大の大きなうねりをどう扱うかを一歩間違ったら、中国全土が火に包まれることになる可能性は大である。

 



 

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