NATO(北大西洋条約機構)の首脳会議に出席後、12日から英国を訪問しているトランプ大統領。 この後プーチン大統領との首脳会談を行うことになっているが、なんともその言動には世界のマスコミが驚きの声をあげている。
ベルギーの首都ブリュッセルで行われたNATOでは、全加盟国29ヶ国全てが2024年までに防衛費を国内総生産(GDP)比で2%に引き上げることを主張。 その要求はどうにか首脳宣言に明記されたようであるが、イタリアやギリシャ、スペインなど国家財政が緊迫している国が多い中、何処まで実現されるかははなはだ不透明である。
問題は、NATO首脳会談に臨むにあたってNATO各国に対する不満を次々とぶちまけるその言動であった。 それは歴代のどの大統領にも見られなかった程あからさまなものであったからである。
どうにか米国と他の参加国との亀裂は避けられたものの、信頼関係を大きく損なうことになったのは事実で、これから先、米国と欧州各国との関係は次第に薄れていくことは避けられそうもなさそうである。 それはまさに、覇権国家・米国が衰退に向かう一つの兆候だと考えておいた方がよさそうである。
米・独首脳会談
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米・独首脳会談は、握手もない冷たい雰囲気の中で行われた。
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今回の欧州歴訪の中で何と言っても世界を驚かせたのは、トランプ大統領のドイツのメルケル首相と英国のメイ首相に対する厳しい発言であった。 カメラの前で握手することもなく極めて冷たい雰囲気の中で始まった米・独首脳会談。 メルケル首相に対して要求したのは、国防費の2%の増額に関して、「ドイツは裕福な国だ。 現在の1%を2%に増額することなど明日にでもすぐに出来るはずだ」と発言。
さらに、要求したのは500億ドル(5兆5000億円)に達しているロシアとの貿易額を大幅に削減することであった。 首脳会談の前に行われたNATOの事務総長との朝食会の席では、「ドイツは完全にロシアに支配されている」「ドイツはロシアの捕虜だ」とまで言い切っている。 どう見ても常識を逸した発言である。 これでは首脳会談で握手など出来るわけがない。
会談後は笑顔を浮かべ友好関係を演じていたが、どうやらドイツと米国の関係にはかってない程の亀裂が生じてしまったようである。
米英首脳会談
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前日のトランプ大統領の発言によって、
米・英首脳会談も冷たい雰囲気の中で行われることとなった。
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NATO首脳会談を終えた後訪問したのが英国。 トランプ大統領の発言はここでもまた物議をかもしだすところとなった。 米英首脳会談を前に英国の大衆紙「The
Sun」に掲載された記事が衝撃的であったからである。
この記事は、前日「The
Sun」の記者がインタビューした際に大統領が語った内容を伝えたものである。 この記事の中で、EU離脱を進めていく上でEUとの関係を従来の「強固」な離脱でなく「穏健」な離脱を目指す」とするメイ首相が発表した白書に対して、「それは英国国民が望んだ離脱ではない」「メイ首相はEU離脱を台無しにした」と厳しく批判。 この発言もまた、覇権国家・米国のトップの発言としては、内政干渉的な暴言である。
この発言の裏にあるのは、英国がEUから離脱することによって、EU各国との貿易が減少し、その分、米国との貿易額が増大することを期待していたことに対する、強い失望感であった。 EU離脱交渉は事実上の期限が10月に迫る中、メルケル首相も強固派と穏健派の間に挟まり苦労している時だけに、大統領の今回の発言は首相に冷や水をかけるところとなったことは間違いない。
実は今回の訪英は英国では全く歓迎されておらず、首都ロンドンでは10万人を超す大規模の反トランプデモが行われ、各地方都市でも多くの抗議集会が行われるところとなった。 エリザベス宮殿での女王との謁見とはあまりに異なるこうした動きは、英国においても、トランプ大統領の一連の言動に対する反発がいかに強いものであるかを示している。
貿易摩擦で関係悪化が危惧されていた米国と欧米諸国の関係、特にドイツと英国との関係は、今回の一連のトランプ大統領の発言で一段と冷え込むことになりそうである。 世界情勢はあらゆる面で一歩、一歩悪しき方向に向かっているようである。